第3話<50.0% 不思議な気持ち>

「おい!待てって!」

 えー...ただいまわたくしは、軽い鬼ごっこをしています。

 現在の会場は秋葉の道路ど真ん中となっており、観光客が写真を撮っている中、真横を全力で駆け抜けております。

 

 そしてハラコウ選手、遠くから軽く走り、ミヤユウ選手を追いかけているのが見えます。

 

 おっとミヤユウ選手、靴紐が解けた。


 タイミングが悪すぎる!


 すかさずミヤユウ選手は口紐を結び始めた。

 ハラコウ選手が来ているか後ろを振り向くがそこにはハラコウ選手はいません。

 ミヤユウ選手は戸惑って二度見をしている!

 ですがそこにはもういない。


なぜならもう、目の前にいるから...


「お~い...おいてくなよ」


 ハラコウはニヤッとして話しかけてきた。

 僕はその顔を見てゾッと肝が冷えた。


 始まる気まずい空気。


 ハラコウは靴ひもを縛り終わった僕の肩に腕を掛けた。

 そして秋葉の歩行者天国のど真ん中を歩き始めた。


「なあぁ、あのメイドさんとどんな関係なんだよ(笑)」


 まだ肩に腕を掛けられている中、とにかくしつこく質問してくるハラコウに正直に話してやった。


「...別に、なんか知らないんだけどさ...なんか玄関に居た人」


「...?」


 もちろんハラコウは理解する事すらできなかった。


だって、自分だってその状況に戸惑った。


「え、どゆこと?詳しくおねがいしやす」


「ん...じゃあ、店でグッズとか見ながら話そ」


 そんなわけでアニメ関連の店に入った。

 店に入った途端から、ハラコウは先程話していたことは忘れてしまったようにグッズを見始めた。


「うへぇー、東京はグッズが多いな」


 ハラコウは店内の奥までスラスラと目を通していた。


「あれ...ない...だと...」


「まあまあ、落ち着いて。ちゃんと見ればあるから。あまりポピュラーじゃないやつはあっちにあるんじゃない?」


落ち込んでいるところ、わざわざ提案した。


「マジ、どこ〜」


 探しに違う商品棚の所に向かった。

 ハラコウは探していたが、すぐに辞めてしまった。


「多分無いよぉ」


「じゃあ、他の店に行くか」


 秋葉原電気街のアニメショップをウロチョロした。


「ない」


「ない」


「ない!」


….


「あったぁぁぁっぁぁ」


 多分10件ぐらい歩き回ってやっと見つけた。

 そしてすぐに会計をして店の外に出た。


「よかったじゃん」


「うんうん、マジでよかった!」


「そんでなんのアニメグッツ?」


 ハラコウは昔から色々なアニメを見ている。

 ほぼ全てのジャンルが好きらしいのに、今回に限って一つのグッズに主着していた。

 特に限定品でもないのに必死に探していた事が疑問だった。


「いやぁ...それがね、面白い話なんよ。『ギャルの綺麗な堕とし方』って言う10年前のアニメなんだけどね、これがまたタイトル回収が上手いんよ。

最初はさ、ギャルが主人公を誘惑して主人公が振りまわされるんだけどさ、2クール目に入るとまさかの展開でさ、それが...」


「いったんストーーーーーーップ。ネタバレするな!」


「え、じゃあお前も見るのか?」


「ああ、見るよ。っていうかいつもそうだろ!毎回お前が勧めて、俺が見る」


「あーそういえばそうだったな(笑)」


 知らないうちに青空が少しづつ夕焼け空の色に染まりはじめた。


「お前、帰る時間は大丈夫なのか?」


「え、まあ、うん。全然大丈夫やけど。あ!もう一回一緒に食いに行こうぜ!」


「またあのメイドカフェに!?」


「お、お前はそっちに行きたいのかぁ。じゃあ行くか!」


「違う違うそうじゃない!」


「え、違うの?じゃあなにが食べたいんだよ?」


「こっちのセリフだ!」


 ハラコウは悩み始めた。


「ん〜...酒場とか?」


「いや昭和か」


「え、でもさミヤユウ。東京の酒場ってなんか昭和の映画っぽくない?」


「まあそうだけど、でもそんな雰囲気の店って数少ないと思うし、ここら辺にはないと思うよ」


「別にここら辺じゃなくてもいいから、行こうぜ!」


 あいかわらずハラコウは突っ走る性格だ。

 呆れてしまうぐらいだが、そこが友達として面白い。


 気づけば電車に乗って、目的もなくただ歩き続けていた。

 でも、最終的に辿り着いた場所は自分のアパートに近い、居酒屋だった。


 ハラコウは外見を見て言葉を吐いた。


「うーん...あんま変わんないや(笑)」


「まあ...うん。そんなもんよ」


「じゃあ入ろうぜ」


 店の引き戸を引っ張り中へと入った。


「こんにちは!」


「いらっしゃい!何名様で?」


「2名で」


「はいよ!そちらのカウンターに座って」


 大将の言う通りに、カウンターの席に座った。


「はい、お通しだ」


「あざまっす!じゃあ生二杯!」


「はいヨォ!生二つ!!」


 ハラコウはどんどん勝手にことごとを進めていく。


 あと、一つハラコウに怒りたい事があった。


「おいハラコウ。俺らまだ19だぞ」


 そう、まだギリギリ誕生日を迎えてないのだ。


「へぇいよ。生二つ」


「んじゃぁ...」


「ちょっ」


 ハラコウはジョッキを持ち、グビグビと飲み始めた。

 も〜うここまで来たらハラコウを止める事はできない。


「クゥェー...うんっっメェーーーー」


「お前大丈夫なのか?」


「ん?別に大丈夫だよぉ。んな事いちいち気にすんな!人生の半分を損するんだぞ!」


 その言葉を聞き、少し呆れた。


 しかし、俺の片手にはビールのジョッキが握ってあり、目の前にはビールの黄色と綺麗な泡が見えていた。

 誘惑と法の正義と葛藤して、自分はどっちに勝つのかを頭の裁判所で判決を待っていた。

 でもハラコウは言った。


「なにずっとビールを見つめてるんだ?...なあミヤユウ。別に法とか、昔からの守りとかそんなのずーっと守っていても、将来、誠実な人の人生と、守りを破った人の人生を比べると破った方の人生のほうが経験は人一倍あるんだぞ...」


 ビールを眺めながら息を吐いた。

 そしてジョッキを口につけて傾けさせた。


 ビールが喉を通り胃へと流れ込む。

 でも途中から喉が熱くなる刺激と、初めてのお酒の味ですぐに口がジョッキから離れた。


「うえぇ、なんだこの味。気持ちわりぃ」


「そりゃあそうだろ(笑)初めてなんだから。あ、大将!焼き鳥を大将のお好み20本ください!」


 今思えば、あいつの性格って、いつもアルコールが回ってるのかと言うぐらい狂っていた事に気付かされた。


「なあミヤユウ。結局、あの人とはどういう感じなんだよ」


 そういえば、秋葉で言うつもりだったがグッズ探しで忘れていた。


「ああ、さっきも言ってたけど玄関にその人が座ってたんだよ」


「いつ」


「夜」


「それで?」


「それで、なんか倒れちゃったから中に入れて...」


「は?中に入れた?」


「え、うん。まあ中に入れて、ベットまで運んでそのまま寝かせといた。」


「お、お前...やべぇな」


「え?あ、うん(?)ヤバいよ??」


「そんで寝かせといて、その後は...」


「その後は、僕もそのまま寝ちゃって、朝起きて、ご飯を作ってあげて、そうしたらその人も起きて、顔を洗って、一緒にご飯を食べて、そんでちょっと話し合って帰って行った。こんな感じ」


「え、中に入れて、ベットでそのまま寝て、そして朝ごはんを作ってあげたっってお前そいつの彼氏かよ(笑)」


「違うよ。ただ人助けしただけ」


「それなのに中に入れたのか?」


「中に入れるくらい当たり前だろ」


「お前、酷い奴なのかいい奴なのかよくわからんわ」


 なにやらさっきから僕とハラコウの意見が噛み合っていない気がする。


「ん?ハラコウ?」


「なんだ?」


「お前なんか勘違いしてないか?」


「なにが?」


「中に入れたって家の中だよ」


「!?あ、そうなの!なんだよぉ、てっきりXXXかと思ったじゃんか(笑)」


 ハラコウは尋常じゃないくらい大きな声で笑い始めた。


「...ハラコウ...キモいぜ、お前」


「ごめんごめんって。だってさ、この歳で『中』って言ったらXXXだろ(笑)」


「だから彼女が居ないんだよ」


「いいんだよぉ別に。俺は二次元でハーレムつくってるから!」


 ビールジョッキを口にして、焼き鳥を食べてこいつの話を聞いて時間が過ぎていった。

 ふと僕は店内の時計が見えた。


 現在の時刻は七時三十一分。


 七時...あ!!!

 

 思い出した。

 いや、忘れていた。


「ちょっ、ハラコウ!用事思い出してさ、今めっちゃ急がんといけないから、先金渡しとくよ。ごめん!」


 咄嗟にポケットから一万円を出して机に置いた。

 

 俺は店から出た。

 ちょうど店を出た時ハラコウが「もう生一つ!」って叫んでいたのが聞こえた。


 走って自分のアパートまで来た。

 階段を登って自分の部屋の方のドアを見るとそこにユウナさんが体育座りをして寝ていた。

 優しくユウナさんの所まで近づいた。

 そして、ユウナさんが座っている体勢まで腰を下げて言った。


「ユウナさん。待たせてごめんなさい」


「...王子様...ずっと待ってたんですよ」


 ユウナさんは顔を半分まで上げて前髪と目を主張しながら話しかけてきた。


「中入ります?」


「うん...」


 すごく眠たそうに返事をしてくる。

 とにかく家に入れてあげた。


「失礼しますぅ」


 礼儀だけはまだちゃんとしている。


 ユウナさんの厚底のシューズを脱ぎ、僕のベットまで一直線に走ってダイブをしていた。

 後から僕も、靴を脱いで鍵を閉め、ベットの所まで行った。


「フォフォのフィエのブヘェットスキ(ここの家のベット好き)」


「なにを言ってるんですか?」


 ユウナさんはベットに埋もれていた顔を上げ、光の速度でこちらを向いて言ってきた。


「やっぱここの家に住みたいです!」


「ダメです」


 咄嗟に答えた。

 そして、前に約束をした事を聞いた。


「ユウナさん。なんで僕の家に来るんですか?」


「...」


 ユウナさんは黙り込んだ。


「やっぱ教えない♡」


 この一瞬の沈黙が生まれたがそれはただの幻覚だった。


「えぇぇ...」


「それより王子様!シャワーを貸してくれませんか?」


「入る」


「え」


 急に予想不可能な発言をされた為、現在、自分の脳にバグが生じた。


「あれ?王子様も一緒に入るの?」


「いや、違うんです」


「え、別にいいのに。だってそれが普通じゃん?」


 この発言は自分の脳内の海馬の奥底に入り込んだ。


「当たり前じゃありませんって!って、ちょいちょいちょいちょい!」


 ユウナさんはいきなり服を脱ぎ始めた。

 躊躇なく脱ぎ始めて、止める事を知らなかった。


「洗濯籠ってあります?あ、あった」


 今度は勝手に人の家の洗濯籠に服を入れ始めた。


 僕はずっとさっきまでユウナさんを見ないようにしていたが、質問されていたので洗濯籠を教えようとしたら、ついユウナさんの下着姿を見てしまった。


「ごめ...」


 今、自分は、言葉というのが世界から打ち消された。

 それは、あまりにもこの世界から外れた存在である姿が僕の目に写ってしまったからだ。

 綺麗...いや、そうじゃないんだ。


酷い...


「なに私の体みてるの、王子様」

「いや...だって...だってお前...なんでそんな...そんなアザだらけなんだよ」


 彼女の上半身はアザだらけで青く腫れ上がっている場所が多々見えている。


 彼女の身になにがあった。

 彼女は、一体どんな生活をしているんだ。

 彼女は...


 言葉を詰まらせてしまう。


「別になんでもないよ王子様...!」


 ユウナさんは時計を見ながら驚いていた。


「ご、ごめんなさい。私もう帰ります」


 ユウナさんはもう一度服を着て玄関に急いで向かい靴を履いて外に出た。



次回<75%堕天使の理由>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る