small war〜開戦〜

 エイト・バナー東部。

 プレート・ストア山の頂上にて。

 たった二人、シティの夜景を眺めている人間。


 狙撃手と、次代少女兵器“Z”。

「うーん、警察のサーバーダウンから、ヤツらはどこまで動くのか……ここが気になるところなんだけど」

「仮定ですが、四菱が襲撃されたらマスターが直々に迎撃をするのですか?」


「そうだね。イーグルはボクの手で殺す」

「四菱の兵器で潰せばいいのでは……」

「いや、彼は機械如きで潰れてくれない。それに直接手を下すことに意味があるんだ」


「それは……どういう事ですか?」

「凍結されていない次代少女兵器は君を含めて4体。“A”、“J”、“V”、“Z”、キミたちを凍結させなければ、このシティは終結しない」

「……それは、分かっています」


 それを承知で彼の元にいるのだから。

「他の2人は別にいいとしても、イーグルはボクに対して強い敵意を向けてくるに違いない」


 ニコニコしながら、“Z”の方に顔を向ける。

「そうなると厄介でね。なにしろ“J”は次代少女兵器でも強力な一体だ。そしてキミとは相性が悪すぎる」

 “Z”のカテゴリは狙撃銃。

 遠方からの射撃において最強とはいえ、近接戦闘の得意なショットガンである“J”の方が有利になりやすいと彼は説く。


「ですが、マスターが遠方から狙撃を行えば相性は逆転するのでは」

「実は、そうはいかない。なにしろ彼らが狙うとなれば四菱の工場だ。弾丸を避けられて、施設破壊なんて事もあるからね。四菱もできる限りフレンドリーファイアはやってもらいたくないらしい」

「企業も神経質なんですね」

「そりゃあね、あの工場が破壊されれば、四菱は二度とシティで武器製品は作れないし使われない。東京の本社もこれ以上は無理だと諦めるしかないさ」


「そうなっていくと、他の企業も恐れて撤退する……そういう事ですね?」

「そうそう。もし他の企業が撤退しなくても、最大の四菱を潰した勢いはついてる。そのまま他にも殴り込めるってワケさ」

 全てが仮定の話だとしても、その未来を人間は選んでいる。それを止めなければいけない。それが彼の役目なのだから。


 しかし、“Z”には何かが引っかかっていた。

「あの、終結というのは?」

 そう。“終結”。

 自分達を凍結させる事で起こり得る終結。

 一体どういう意味なのだろう。


「それはシティの一つの区切りだ。この都市は、過去の日本へと戻さないといけない。そう、本来の日本へと」


 頂上に冷たい風が吹きつける。

 2人はその風を身体で受け止める。


「このシティに平和などない。秩序も安息も永劫現れる事はない」

 彼の声に力が篭る。

 この都市の進化を否定するように。

 この都市の存在を侮蔑するように。



「だから、すべてをリセットする。それを可能にする力がキミ達にある」



 シティの初期化。それが、彼の計画だった。

 全てを破壊して、1から再生する。

 いや——0からというべきか。

 狙撃手の瞳は一段と輝くシティの景色を捉えている。


 怨みの色を瞳に煌めかせながら。



 かくして、三者三様の思いが交錯する小さな小さな戦争がこのシティで始まる事になる。

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