noble violence 〜英雄的暴力装置〜
ゲート・アドミニスター
旧赤煉瓦倉庫広場にて、ブラックブレイズは殲滅対象の鏖殺を行なっていた。
少女兵器“A”は返り血を浴びたユウキの前に佇んでいた。
「そういえばユウキ、警察のサーバーが潰されたのは知ってる?」
「ああ、もちろん。全く趣味の悪い人間もいたモノだ」
「犯人は特定できていない。けと、警察の混乱に乗じて必ず何かが起きる」
“A”の告げた内容は確実ではないが、何の意図もなく警察署にサイバー攻撃をするような命知らずな事はどんなバカでもしない。
決して、軽視できる情報ではなかった。
「……話は関係ないけど、あなたが処理したはずの“殺し屋イーグル”、まだ生存反応があるわ」
イーグルという言葉に反応する。
「ヤツが関わっている可能性はあるのか?」
「それは、分からない。でも“J”がイーグルの所にいるとなったら、どんな形でもあなたの敵になると思う」
ユウキは脳内からカムリとの戦闘ログを思い起こす。
“J”というのはあの白いショットガンの事。なるほど、と合点がいく。道理で数分でも渡り合えたという事か。
「想定範囲内だ。何かがあれば、すぐに駆けつければ良い。それがヒーローなのだからな」
“A”はただ、彼の身を案じていた。
彼の目的は、正義であり続ける事だけ。
そこに貰う対価はなく、与える慈悲もない。
“A”は物憂げな顔でユウキを見つめる。
その儚げな視線をユウキは受け止める。
「心配か、“A”。俺が死ぬ事が」
「あなたは死なない。だから別に心配なんてない」
でも、と彼女は言葉を続ける。
「あなたの正義は、本当にあなたが求めてるモノなの?」
その言葉がユウキの心に響くかどうかなんて分からない。
「あなたがロボットであるのは分かってる。国の為に必死に血を被っているのも分かってる。けど、その中にあなたの意思が見えないの」
それでも“A”は続けた。
ただ彼の為に。
「あなたに裏切りは許されないのかもしれない。でもずっとシティの平和の為だけに人間を殺し続けるのは、兵器と違わない。あなたは、それでいいの?」
ユウキは“A”の言葉に呼応したかどうか分からない。だがユウキは僅かに涙ぐんでいる“A”の頭を撫でて独り言のように呟く。
「俺には、それぐらいしか出来ないんだ」
たとえ彼の根底に人間への復讐があったとしても、彼の行いが行き過ぎた正義であったとしても、プログラムに組み込まれただけの存在にそれを否定できる力はない。
そもそも、否定という概念すら彼にはないのだ。
次代少女兵器の“A”とは違い、命令に抵抗する術など最初から持ち合わせていない。
それが、“ただの人間”としての彼を大きく傷つけたのだ。
結局、自分は兵器でしかない、と。
だから、彼は意思を持たない兵器として正義を執行する。
どんなに歪もうと、どんなに捻くれようと。
それが人間達の求める正義なのであるならば、拒む事はない。
四菱は、いや企業ははっきり言って最低の存在だ。
目先の利益だけを求めて、多くの犠牲を厭わない。
だが、彼らに楯突くというプログラムは彼の中にない。
「行こう、“A”。これはシティの秩序の為だ」
だから彼は駆けるのだ。
悪を、消し去る為に。
銃火に溢れた街を駆けていくのだ。
彼の頭の片隅に刻まれた小さなエラーコードを残しながら。
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