tonight〜静寂、随想〜
深夜午前2時。
嫌な夢を見た。
目を覚ます。
身体を起こすと、隣で“J”が小さな寝息を立てて眠っている。
「ロボットとはいえ……女が横で寝られると落ちつかねぇな」
カムリは“J”を起こさない様にベッドから起き上がる。
ふと何を思ったか、かけられていたスカジャンのポケットを漁る。
そして、夜風に当たろうとベランダへと出ていく。
星空が煌めく夜。月は欠けていた。
冷たい風が頬を撫でる。
カムリはスカジャンの中から持ってきた緋色の拳銃を眺める。
世界中のどのメーカー品でもない、緋色のオートマチックの拳銃。
撃っても弾が尽きない、不可思議な銃。
「お前が、助けてくれたってのか?」
“
スライドに刻まれた文字。
そしてもう一つ。今度はグリップに刻まれていた。
“
(……)
誰も知らない、彼の心にある一つのわだかまり。
あの女から託された緋色の拳銃。
寂れた廃屋で腐った死体と共にいた赤髪の女。
——悲しいか、お前のヒーローが死んだ事が
——ええ、そうね。胸の中心が虚ろになった気はする
——お前は、ロボットなのか?
酩酊していくカムリの視界の中で、赤髪の女は儚げに微笑む。
——そうでありたかった。
あの時の女が託した拳銃。
「ヒーロー……ね」
一概に言えば、自分を捨てて世界を守る存在。
いや、世界は言い過ぎだ。せいぜいこのシティぐらいだろうか。
それでも、この広大な都市を守る存在にはなれない。
今更、誰かの為に死にたいと思えない。
一度生き返った命だ。そう簡単に捨てたくは無かった。
だが、何の為に生きれば良い?
もう何も残っていない。
ただ死にたくないと願った臆病な自分がここに立っている。
(俺は、誰かの為に死ねるのだろうか)
それが果たして悪い事なのかは分からない。
それでもそんな自分が嫌だった。
「ん……ここにいたのね」
甲高い声が聞こえる。
背後で“J”が目を擦りながら立っていた。
「起こしちまったか?」
「いいえ。私も少し暑かったから」
「そうか」
ベランダの柵に寄りかかったカムリ。
「……それ。お気に入りなの?」
“J”は彼の手に持っている緋色の拳銃を見つめていた。
「いや、ただの拾い物だ」
「そう……よく使ってるよね」
「そうだな、コイツが俺のメインウェポンと言っても過言じゃねえ」
「大事なものなのね。その銃も喜んでると思うわ」
「……そうか?意外にロマンチストな事言うんだな」
そう言ってベッドへと戻ろうとするカムリ。
だが、ふと思い立って彼は足を止める。
「少し、昔話でもするか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます