hero 〜最悪の邂逅〜

 何もない開けた場所にポツンと立っている、古くて小さな3階建ての建物。

 会社の名前でも書かれてあったであろう、ペンキのかすれた赤色の看板。


「本当にここで合ってるのかよ」

『ええ。ジョセフは何かあった時の為に救難信号を持ってる。ワタシはそれを受信する役割』

「……救難信号?」

 訝しむカムリ。

「じゃあ……ジョセフに何かが起きてたって事なのかよ。だから、ジョセフは俺にお前を託したって事なのか?」


『ええ。そうよ』

 “J”の答えを受けて、カムリは反射的に古びたビルの中へと駆け込んだ。

『イーグル!?』

 驚く“J”。

 しかし、カムリは既に扉を開けていた

 中へと足を踏み入れた瞬間に銃弾が弾ける。


 目の前に黒光りするアサルトライフルを抱えた人型ロボットが数体。

 

「警備用……!?」

 人の機能性を模した二足歩行のロボット兵隊。

 人が居ないはずなのにどうして今も動いているのか全く分からない

 だが、今のカムリにとってはそんなのどうでもよかった。

 

 前に出ていたロボットの一体の頭部目掛けて膝蹴りをして、頭部を床に激突させた。


 ロボットの頭部は床にぶつかった衝撃で砕け、機械部分が露呈する。

 「邪魔……するんじゃねぇ!!!!」


 そして腕部をもぎ取って他のロボットの頭に殴りつけた。

 手に持っていたアサルトライフルごとだ。


 頭と腕が同時に砕ける。

 カムリはそのまま、ロボットの腕からアサルトライフルを奪い、1発ずつ人型ロボットの頭部を撃ち抜いた。


 あえてライフルは連射ではなく単射で正確に撃つ。

 焦りはあれど、不測の事態を見越して弾数の管理にも気を配っていた。


 次々と弾丸でロボットの頭部を破砕していくカムリ。


「お前は信号の感知に集中しろ!!」

『それだと、戦えな——』

「時間がねぇだろうがっ!!」

 カムリの咆哮が“J”を鎮まらせる。

 淡々とロボットの頭を撃ち抜いていく。


「ライフルでも影響はねぇ。お前はナビゲートに徹してくれ!!」

 カムリはそう言って頭部の砕けたロボットの上を走る。


 エレベーターに乗って上へと昇っていく。

「全部で3階……クソ、しらみ潰しに探すしかねぇのかよ」


 目的地こそ分かっているが、細かい場所が分からない。

 ショッピングモール自体を特定出来てもその中にある目的地には、なかなか到達出来ないのと同じ。


 比較的小さなビルで良かったものの、ジョセフの居場所まで特定するには連続的に救難信号を受信する必要がある。

 それまでは“J”の邪魔をしたくはない。


 何よりも、時間がないのだ。

 ジョセフがどうやって信号を出したのかは不明だとしても、救難信号は24時間を超えると切断される。


“J”が信号を感知したのは昨日の夕方。


 つまり、期限は今夜。

 だからこそカムリは焦っていた。


 エレベーターで2階に到達する。

 扉が開くと共に部屋の中を駆ける。


 廊下に立つ警備ロボットの頭をライフルで撃つ。


 綺麗に並んだいくつものドア。

 そのドアを一つ一つ開けていく。

 いない。それどころか影すらもない。

 人が一人もいないのだ。


(クソ……どこにいるんだよ!!)

 焦りだけが、身体を急かす。

 2階には何もないと察知したカムリは、エレベーターへと乗り込む。


 3階へと止まる。


 エレベーターが開いた時、不意に殺意を感じた。


「……お前が、この街を脅かす危険因子か」

 目の前に立っていたのは、黒いスーツを着た一人の男。

「悪いが、お前に構ってる時間はねぇよ」

 だが、男は横を通り過ぎようとする、カムリの横腹に回し蹴りを叩き込んだ。


「っが……!?」

 突然の攻撃、そして重い一撃に思わず膝を着く。

「……何なんだよオメェはよ!!!!」

 咆哮が2人だけのだだっ広い部屋にこだまする。

 カムリは痛みを抑えながら身構えて男を睨む。


 対して、男は

「お前は制裁するべき悪だ。ここで逃がす訳にはいかない」

そう言って、手首に付けた銀色の精密機器の様なブレスレットに触れる。


『Beginning』

 電子音声と共にブレスレットが発光する。

「“変身”」

 男はポリゴン状のベールに包まれ、鉄鋼の黒色が輝く鎧へと纏った。


 そこには、朝のテレビで子供が見るようなヒーローの姿があった。

 機械めいたスタイリッシュな鉄鋼の鎧を装着した仮面フルフェイスのヒーロー。

 

 戦隊やらライダーやらといった稚拙なヒーローが、カムリの前に立ち塞がっていた。

 

「……っ!?」

「俺の名は汐留ユウキ。またの名を——ブラックブレイズ」


 ギラリと、仮面の奥で紅蓮に光る二つの炎。

 それはまるで、目の前の悪を燃やさんとばかりに輝いていた。


「俺は……お前を殺す愛国者だ」


 危険を察知したカムリは迷いなくエレベーターのボタンを押す。

 扉は閉まっていくがしかし、ブラックブレイズの拳が扉をぶち抜いた。


「言っただろう。ここでお前を逃がす訳にはいかないと」

 マスク越しからでも分かる威圧的な視線。


 ただでさえ時間のないカムリにとって最悪の邂逅となっていた。

 

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