bloody patriot 〜歪んだ正義〜

 シティ北部、ゲート・アドミニスター区域。

 本土との連絡橋が存在する区域にて。


 静かな細波の音を聞きながら対岸の夜景を眺める中年の男と少女。

「なるほど……“J”と“V”のマスターが接触。四菱の制御室の鍵を奪取……か」

 男は柵にもたれかかってタバコを吸っていた。

 40にもなるというのに未だに若々しい身体は、日々鍛えた証なのだろう。

「四菱の制御室に何かある訳ではないと思うがな……お前の見解はどうだ“、A”」

 男は、隣の赤髪の少女に尋ねる。


「間違いなく四企業を崩壊させる為にやってるね」

 少女は海峡を通過する船を興味津々に眺めていた。

「四企業……四菱、マツシバ、日重、相模の四大財閥……」

「彼女達は自分を生んだ事に対して強い怨みを持っている。ただの少女ならまだしも兵器としての役割を与えさせた人間たちを」

 少女の言葉は、同胞達を悲しんでいるように思えた。


「企業にしては非人道的すぎる計画だったからな……26人の少女を機械兵器に改造、そして本土への侵攻の切り札として利用する……今聞いても吐き気しかしない」


 タバコの煙を燻らせて夜風に触れる。

「ユウキ……あなたは、どうするの?」

 気づけば、赤髪の少女が男の方を見ていた。

「決まってるだろ。そんなテロ紛いの事、止めにいくのがヒーローだ」

 男は自分の手首に装着しているブレスレットを見つめる。

 その眼差しは本土の夜景よりも眩しいものだった。


 ふと少女が何かを感じて男に向かって呟く。

「ユウキ、新しい仕事」

「了解。シティの治安は俺が守る」


 そう言って、港を後にする。

 男は手首のブレスレットに息を吹きかける。

「変身」


 瞬間。黒いポリゴンと共に合着していく武装。


 そして手には鋼鉄が埋め込まれたナックルグローブ。


 彼の名は、汐留ユウキ。

 またの名を“ブラックブレイズ”。


 シティの警察の“代理”として全ての悪を燃やし尽くす“黒い炎”。


「行こう、“A”」


 港沿岸にある赤煉瓦の倉庫の中、派手な柄物のシャツを着た男達がたむろしていた。

「おい、ブツの準備は出来ているのか」

 そのリーダー格のチンピラが、ドスの効いた声をあげる。

「こちらに」

 スーツの男から差し出されたのは銀色のジュラルミンケース。

「おう、これだ……サツマ・メタルレーザー。これがあれば九洞の連中を屈服させることができる……」


 下品な笑い声をあげる男。

 彼には九洞會とのなんらかの因果関係があったのだろう。

 だが、男がそれを果たす事は出来ない。


 赤煉瓦の壁を突き破って、彼が現れたから。

「なんだァ、てめぇ!?」


 男の脅しも効くことはなく、静かに月夜に浮かぶ一つの影。

 その姿を見た者は誰しもが恐れ慄く。

「あれは……まさかブラックブレイズ?!」

「そんな…おしまいだ」


 しかし、彼はただ無情に彼らを見下ろし、告げる。

「指定暴力団“鮫竜組”。ここで正義の鉄槌を下す」


 それは見紛うことなく惨状だった。

 鉄を纏った拳と足蹴で行われる、一方的な暴虐。

 銃で応戦する暇もなく斃れていく。

 肉体を潰し砕く一撃を生身の人間が耐えられる訳がない。

「ぎいいやぁぁぁ!!」顔面を潰す。

「許してくれぇぇぇ!!」肋骨を潰す。

 惨たらしい悲鳴がそ倉庫の中でこだまする。

 それでも彼は止まらない。


「頼む、家族がいるんだ……見逃してく——」

 その言葉を聞き終える前に顎を砕く


 止まらない暴力。

 それは正義と言うにはあまりにも歪みすぎていた。


 次々と斃れていき、ついにはリーダー格の男一人よのみ。

「な、なんだよぉ……何が欲しいんだよぉ……」

 怯える男を前に彼は蔑んだ視線を送るばかり。

「欲しいモノなんてある訳がない。この街を平和にする。それだけが目的だ」

 そして、彼は拳を振り上げる。

「平和の為の糧となれ」


 倉庫から現れたブラックブレイズ——ユウキを心配そうに見つめる“A”。

 彼は赤く染まったジュラルミンケースを持っていた。

「ユウキは辛く、ないの?」

「辛くはないさ。全てが街の平穏の為に繋がると思えば……これくらい必要だ」

 マスクを外したユウキは、血塗られた拳を見つめ、夜空を見上げる。

 そしてそのままタバコを咥えて、火をつける。

「どんなに歪んでも……正義は勝つ。勝たなければいけないんだ」

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