第12話 決別の羽

――

 私は璃穏が泣いている姿を見たことがないが、いつも悲しそうな表情をしていた。ある時から彼女の表情がとても暗く、目に隈が出来ているようにも見える時期があった。私は彼女にちゃんと寝てるのか聞くと、「寝てる」と応える。でも、授業中はほとんど目を閉じているのは見えていた。恐らくは寝ていないのだと、すぐに分かった。ある時、私は彼女の家に行き、マッサージをしてあげた。私たちの間では幼少期から何故かマッサージをすることが流行っていたので、彼女もそれは受け入れてくれた。優しく指圧していくと、彼女はすぐに眠りについた。その時に出た寝言は、私の心を焦らせたのだった。


「いい加減、うんざりだよ」

――


「璃穏……やっぱり……」

「返事を聞かせて。一緒に殺してくれるのか、そうじゃないのか」


 表情を変えずに話す璃穏に、私の顔は崩れる。それでも、私は自身の想いを伝える。


「殺すことの手伝いは出来ないよ。でも、そういうやり方以外の方法なら、手伝いたい。璃穏のことを助けたいよ」

「……そっか。ま、美火はそういうよね。そういうの、平気で言えちゃうタイプなんだもんね。分かったよ。もう相談しない」

「もし! ―――もし璃穏が殺すことを目的に動くのなら、それは、私は親友として、人としてやっちゃいけないことは、止めるよ」

「ううん、もう美火とは会うことはないよ。だってさ……」


 璃穏がそう言い、手をかざす。そこから小魔法の闇属性魔法が発動し、それは蛇となって私に向かってきた。私は反応に遅れ、何も出来ずにいた。次の瞬間、私は強く押し出されていた。友馬が咄嗟に私を押し出したようだ。友馬は闇属性の蛇に巻かれ、完全に身動きが取れなくなった。


「友馬!」


 私はすぐさま炎属性魔法で剣を作り、友馬の前に出る。続けて往来する闇属性の蛇を切り伏せ、続けて炎属性の砲弾を璃穏の足元へと撃ち出した。璃穏は私から距離を取り、その攻撃を回避する。そこで一旦行動は止まった。


「璃穏……お願い、考え直してよ」

「美火。私はこの世界に来てからずっと、悩んでたんだ。昨日今日決意したわけじゃない。分かるでしょ。もう止まらない。止められない。止めるなら戦って、それが出来ない体にするしかないよ」


 璃穏がそう言い、背中より羽を出現させる。片方は白く、そしてもう片方は黒い羽根。3つずつ生えた羽をはためかせ、宙には白黒の羽根が舞う。そして、両手に白と黒の長剣を出現させた。


「璃穏……」

「ほら、見せてよ。熾天使ミカエルの力の、その正義の力をさ!」


 私は炎属性の剣を持ち直し、構えた。

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