第11話 心が軋む音

――

 彼女はいつもお昼ご飯は売店にある安いパン一つだった。 彼女の両親は仕事で忙しく、それを知ってる彼女はお弁当を断っていた。

 私はある日、授業についてのことを聞くついでに、そのことについても聞いてみた。彼女の返答は


「お金を節約してるんだ」


というものだった。私はそのことに少し引っかかった。彼女の家は富豪ではないが平均よりも上寄りの仕事をしており、あの優しい彼女のお母さんお父さんが、お小遣いを渡さないはずがない。それに、私は密かに気づいている。彼女が両親のアカウントでイラストなどの動画配信、動画投稿でもお金を稼いでいることを。そんな状況で節約をすることがあるのかと、疑問に思った。しかし、それ以上のことを彼女は語らない。私はそれ以上の追求も会話の状況的に出来ず、その会話を終えた。

 心のどこかで、何がどうなってそんな言動になっているのか、繋がっていたにもかかわらず、私はそれを意識化せず向き合わなかった。

――


 そこは地下へと続く洞窟の道だった。ひんやりとした空気が肌を冷やし、先に続く闇を一層深めている。私と炎属性と璃穏の光属性魔法で暗闇を晴らし、璃穏を先頭に洞窟を進む。


「本当にこの先にあるのか? 全然感じないけどな」

「石古君は多分感知する力が弱すぎるから、出来ない。だから付いてきてもらうしかないけど」

「分かったよ。ただ心配になっただけだからさ」


 友馬と璃穏は最低限の言葉で会話をする。この光景はいつもクラスの中では起きていた光景だ。大体は友馬が璃穏に話しかけ、璃穏が素っ気なく話して終わる。たったそれだけのやり取りだが、今はなんだか微笑ましく感じる。


「なんか、2人のやり取りも懐かしく感じるね!」

「そうだな。体感じゃ1か月以上たってる感じするし」

「別に、私はただ反応してるだけだよ」

「それでもだよ! 今だから言うけど、クラスに馴染めてるか心配してたんだから!」

「……なんとなく心配してくれてるなってのは、分かってたけどね。美火は分かりやすいから」

「確かに、美火は顔とか体の仕草とかで何となく分かる気がするな。あの時は……」

「ちょ、ちょっと! やめてよ恥ずかしいじゃん!」


 慌てる私の姿を見て友馬は悪戯な笑みを浮かべる。璃穏も少し柔らかい笑顔を見せるが、すぐに表情を戻す。そして、璃穏は少し真面目な声で話し始めた。


「あのさ、美火」

「どうしたの?」

「美火は、私の幼馴染で親友、だよね」

「もちろん! 私もそう思ってるよ!」

「親友なら、私の味方になってくれるよね?」

「味方だよ! 敵になんてならない」

「そっか……」


 璃穏が言葉を止める。気づくと洞窟内でも随分先の方に進んできており、そして広い空間へと出た。天井に穴が空いており、日の光が空洞内を照らす。その空間の中央付近に、少し宙に浮いた黒紫色の球体が、闇のオーラを放ちながら漂っていた。


 「あれが、魔物を引き寄せる闇属性魔法だよ」

「見るからにそうだよね! それじゃあ早速破壊を……」

「その前に、一つ話したいことがあるんだ」


 璃穏は私たちから離れた位置に行き、私に向きなおす。その表情はいつも控え目な彼女からは出てこなかったような、怒りに満ちた表情だった。


「さっきここに向かってる時に言ったと思うんだ。この世界にはあのクラス全員が来てると思うって。さっきは推測って言ったけど、ほぼ確証があるんだ。それでね。私はこの世界でしか出来ないことを、したいんだ。私の親友で味方なら、美火にもそれを一緒に手伝ってほしい」

「――聞かせて。それから考えるよ」


 私は先ほどまでの明るい振る舞いはしない。心のどこかで引っかかっていたことが、もはや証明されているようなものだから。向き合えなかった罪悪感で、背筋が寒い。それでも今は彼女の言葉を、聴かなければいけない。


「私と一緒に、あのクラスのカースト上位のグループ全員を殺してほしいんだ」


 私の心が軋む音がした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る