翌日からも優月くんの言った通り、特に何も変わったことのない、“いつも通り”の時間が流れていった。


 変わったことと言えば、彼と連絡先を交換して、毎日のようにやり取りをするようになった。


 長いときは一時間以上も。


 内容はその日の授業のことだったり、なんてことのないくだらないことばかり。

 けど、時間はすぐに溶けていって、どうしようもなく楽しかった。


 優月くんは文章の方が生き生きとしていた。

 リアルじゃ言わなそうなことも平然と送ってきて、私は何度かドキドキさせられた。


 学校では、相変わらず私は読書をして過ごしたり、春奈ちゃんたちと他愛のない話をしたり。


 春休みに突入すると、学校もない宿題もないで、堕落しきった生活が始まった。


 いつものように読書をしたり、ノートを開いて自分で小説を書いてみようなんて思い立って、恥ずかしいものが出来上がったり。


 私がずっと優月くんとチャットしているものだから、お母さんに「彼氏でもできたの?」と聞かれて、「……は?」といつもより低い声が出たり。


 彼が病気について話してくれてから、あっという間に一ヶ月が過ぎた。



 私が大学ノートに小説の下書きを書いていると、優月くんから連絡が来た。


『病院行ってきたけど、良くも悪くもなかった()』

『それは笑えることなのかな?』

『知らない』

『えぇ~』


 内容は病気についてだけど、思わず笑みがこぼれる。


 少し悩んでから、私はなんとなく思ったことを送ってみた。


『今度、私が書いてるお話読んでみてほしいな』


 既読は付かなかった。

 多分帰ってる途中だったのだろう。


 私はノートに向き直って、続きを書き始める。


 私が書いているのは、私と優月くんが学校の屋上で出会ってからのことを、物語風にまとめているもの。


 だからこそ、一度彼に読んでみてほしかった。


 時間を確認するために、スマホの電源をつける。


 彼からの返信は、まだ来ていなかった。


 既読が付くのが早い彼にしては珍しいなと思いつつ、そんなこともあるかと特に気にしなかった。


 二時間、三時間経ってもまだ反応がなくて、少し寂しくなった。


 四時間ほど経って、私は『何かあった?』と送ってみた。

 やっぱり反応はなくて、流石に不安になってきた。


 結局この日、返事は来なくて。

 私は翌日、どうして返事が来なかったのかを知った。


 彼は駅の階段で、人を庇って落ちたらしかった。

 本当に、凄いなと思う。


 彼に助けられた人は、無事だった。


 けど彼は、優月くんは、打ち所が悪くて、そのまま息を引き取っていた。


 彼は嘘をついた。


 半年も生きなかった。


 一ヶ月で死んでしまった。


 私は甘えていた。


 誰だって明日死んでしまうかもしれないのに、彼の言葉を信じて、半年は約束されているなんて勝手に思っていた。


 世界はやっぱり厳しかった。


 神様は、どこまでも平等だった。

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