決着
あの時の私はよく行けたなと今では思う。
優月くんと出会う前ならビビりまくっていただろうに。
ヒーローがいるとわかっていると、無謀な行動に人は出れるのかもしれない。他力本願と言われればそれまでだけれど。
空は快晴で、少しだけ赤味がさして綺麗なのだが、それに似つかわしくない、ピリッとした空気が漂っていた。
【いじめっ子一号】が無言で詰め寄ってくる。【二号】はなんとも言えない表情でこちらを見ている。
思えば、【二号】はそれほどこのいじめに積極的ではなかったような気がする。そんなことはどうでも良いのだけれど。
「今日は何の用ですか」
今回の場合は逆に何かされないと困るのでそう訪ねる。挑発みたいになってしまったけど。
「っ……気に入らないのよ!一時は暗いやつになってたのに最近は……!」
どうやら相当心が乱れているらしかった。
彼女らの足元にはいつものバケツが置いてあって、ご丁寧に水までしっかり入っている。
じぶんがかなり危ない橋を渡っていることを改めて認識して、少しだけ後ずさってしまう。
だけど、ここでやられっぱなしになるのも癪だった。
優月くんたちにまかせっぱなしなのは、嫌だった。
「……私が暗いやつになったところで何になるの?それで【イケメン】さんはあなたたちに振り向くの?」
「……っ!」
私のささやかな反撃は効いた。というか効きずぎた。
ストッパーが外れたのか一気に掴みかかってきた。
怖い。けれど、やられっぱなしだったわたしから変わるチャンスだと思った。
私は掴み攻撃を、避けた。
「……は?」
【一号】は驚いていたけれど、無理矢理避けたせいでバランスを崩した私の腕をすぐに捕らえた。
もうそろそろ頃合いだろう。
私はそのまま尻餅をつかされ、追撃として水をぶっかけられた。
私のやるべきことは終わった。
バケツが床に落ちた音が響く。
それが合図となったかのように、タイミングよく屋上の扉が開かれる。
「【いじめっ子】たち、どういうこと?」
「せんせ……なんで……」
先生は色々な感情が入り雑じったような表情を浮かべ、【いじめっ子】たちは困惑の表情を浮かべている。
優月くんと滝川くんは、呆れと苛立ちが混ざったような顔で、春奈ちゃんは明らかに怒っている。
妙に冷静にそんなことを考えていると、先生が近づいてきて、「早く着替えて帰って。話はまたでいいから風邪引くよ」と言ってくれた。
私は「あっはい」と気の抜けた返事をして立ち上がった。
濡れた制服を見て顔をしかめていると、優月くんが近づいてきて、労ってくれた。
表情はいつものようにあまり変わっていなかったけど、「お疲れ」と言った声音は優しくて、暖かかった。
私の体は冷えきっていたけれど。
結論を言えば、この日、この時、私に対するいじめは完全に終わった。
翌日、私が教室に入ると【いじめっ子】と先生が居て、謝罪を受けた。
正直そんなものは要らなかったのだけど、改めて終わったということを感じた。
これからは平穏な日々が続くと、そう思った。その時は。
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