優月の不在と作戦会議

 滝川君も春奈ちゃんも放課後は私と関われないため、優月君のいない一週間は憂鬱だった。


 【いじめっ子】は部活を休んでいるのか私を追いかけてきて、住宅街の歩道の脇にある、植物が生えている畑のような場所に突き落としてきたりしてくる。

 雨が降った日には傘で水をかけてきたりで、私はとてもイライラした。


 体当たりを避けてそのまま逆に突き落としてやろうかとも考えたけれど、後で何されるかわかったもんじゃないのでやめておいた。

 反撃できないというのはもやもやするけれど。


 そんな訳で一週間が経って、優月君が復帰した。


 彼と一緒に下校しているとき、私は思わず弱音を吐いてしまっていた。


「私、心折れちゃいそうだよ」


 怒りや不快感で私の心はぐちゃぐちゃだった。


 優月君が一瞬悲しそうな表情をしたように見えたけれど、無表情で私に質問を投げかけて来た。


「なぁ、もし先生にあなたはいじめを受けていますかなんて聞かれて、はいそうですって答えれる?」


 私はすぐに意図を察したけど、返答につまってしまった。


「……後が怖くて言えないかもしれない」

「実際ありますって答えても【いじめっ子】はこってり絞られるだろうから、そういうことはよほどあいつらが執念深くない限りないんだろうけどね。まあ、用心しとくに越したことは無いんだけど」


 どうやら優月君はなにか考えているらしい。


「つまりどういうこと?」

「別に僕らから普通に密告しても良いんだけどな。なんせこちとら証言者が三人いるから」


 普通にこちらが有利に思える。

 私がしっかり答えれたら多分終わるし、もし私の下校を見ている人がいたら証拠も完璧に揃う。


 でも、と優月君は続ける。


「正直な話をすると、いじめ対策推進法だっけな?それがあるとは言え、先生にそこまで期待できないというかなんというかでね」


 余計な予備知識があるからねと彼は笑う。


 まあそれは私も思うし、現場を目撃でもしないと中途半端に終わる気もする。


「なぁ、まだメンタルに余裕はある?」

「多少は?折れそうとは言ったけど服破られたりしたわけでもないし。かなりイライラはするけどね!」


 心はささくれ立っているけれど、別に死にたいだとかそこまで病んだりはしていない。

 声に出しては言えないけれど、優月君がいるとなんだか安心するというのもある。


「なら、【いじめっ子】に餌をプレゼントしてやろう。明日から僕らが君に話しかける頻度を減らす」

「要するに隙をあたえると」

「イグザクトリー。ま、狙うは屋上呼び出しかな。呼び出されたら素直に行ってやれ。先生呼び出して現行犯逮捕したい」


 かなり回りくどいやり方だし、そこまでする必要ないだろうけど、現場を見せるのはいじめっ子を捕まえる面では手っ取り早い気がする。


 私が身を削ることにはなるけれど、今までやられていたことをまたやられるだけだし、それが成功すれば最後になる。


 なんてことない……はずだ。


「わかった。頑張る」


 私がそう答えると、優月君は申し訳なさそうに「ごめんな」と言った。

 確かに方法としては少しあれだけれど。


「いじめがそれで終わるなら」


 私は心の底からそう思った。

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