地獄の始まり

 次の日からが地獄だった。


 翌朝、私が教室に入ると、数少ない友人が早速私が告白されたことを確かめに来た。数少ないというのはこの際どうでもいい。

 

 誰にも言っていないのに伝わっているのはともかく、その告白してきた相手が問題だった。


 私は話したことがないからと一蹴した(恰好はついていない)が、容姿や性格は恋愛に興味が無い私でも良さげだなと思うくらいだった。

 どうやらこれは女子の中では共通認識らしく、つまるところ私はそんな”憧れの高スペック男子”をふったのだ。


 そして私は、その日の放課後屋上に呼び出された。


 嫌な予感は感じつつも、無視をするのは気が引けるため屋上に行くと、二人の女子生徒が待ち構えていた。


 私が何かを言うよりも先に、その中の一人が声を荒げた。


「どうして【イケメン君】の告白を断ったのよっ!」


 そう言って【いじめっ子一号】さんは私の肩を突き飛ばし、私はバランスを崩してよろめいた。


「……っ!……っあっ!?」


 ガンっと鈍い音を立てて、私はドアに思い切り頭をぶつけた。

 地味に痛かった。

 しかしそれだけでは終わらなかった。


 私が何かを言うより先に次が来た。


「なんで……アンタみたいな暗い奴なんかにっ……」


 暗いやつなのは否定しないけれども、八つ当たりは心の底からやめてほしい。

 反論したところで何かが変わるとは思えないほど、彼女は【イケメン君】に入れ込んでいたらしかった。


 それからしばらく、私は無感動をたたえた目で、されるがままになっていた。



 あの時、私が何かを言い返したらどうなっていたのだろうか。


 たまにそんなifを思い浮かべてしまうけど、正直何も変わらない気がするし、今更考えたところで仕方ないのだけれど。


 この日から、私は殴られたり水をかけられたりと嫌がらせを受けるようになっていた。


 正直な感想を言わせてもらうと、そんなことをしてきた【一号】さんは馬鹿なんじゃないかなんてどうでもいいことを思っていた。


 どうやら高スペックらしい男子に告白されたのにも関わらず、断ったことにイラっとするのはまだわかる。

 大好きな彼を否定されたように感じただろうから。入れ込んでいた彼女ならなおさら。


 けれど、そこで私をいじめようなんていう発想に至るのは意味が解らない。


「私がふったからフリーなのに、なんでそこでアプローチせずイメージダウンに走るんだか」


 私は誰もいない屋上で一人愚痴る。


 嫌がらせにはかなりイラっときたし、ストレスで禿げそうなんてふざけた感想も出てきたけど、暴力に関しては相手が女子だから大したことはなかった。

 かくいう私も貧弱な体をしているのだけれど。


 私は、寒空のもと水をぶっかけられるというのが一番嫌だったし不快だった。

 寒いのはもちろんのこと、制服がポロシャツなため服は透けるしで他の人に見られたら困るからだ。


 あと、風邪を引いて学校を休むというのも嫌だった。

 プリントとかを後から提出するのはめんどくさいし恥ずかしいから。


 まあ、相手はそういうのを狙っていたのだろうけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る