第一章

出会い

「ここで……何があったの?」


 学校の屋上。

 最近の学校では珍しく解放されているのにも関わらず、冬の寒さのせいで誰も寄り付かない場所に突っ立っている私に、芦原優月は開口一番そう言った。


 彼は見るからに困っていた。その原因は明白だ。

 私は水に濡れていて、その足元には染みが広がりバケツが転がっているのだ。そうなるのも無理はない。


「私が水を被った。それだけ」


 私がそう言うと、彼は納得していなさそうな表情を浮かべながら何かを悩んでいた。


「まさか、自分で被ったわけじゃないよな?こんなに寒いのに」

「……そうだね」


 私は短くそう返した。

 多分彼ももうわかっているだろう。


 私が”いじめ”を受けていることを。


言葉が見つからないのか、彼は「そうか」とだけ返して黙り込んでしまった。


「……ふぇあっくしょいっ!」


 私は派手にくしゃみをかました。

 水をかけられてから暫くたっており、さすがに体も冷えてきている。

 そもそもこんな寒空の下濡れた状態でいたら風邪を引きかねない。


「何か上着とか持ってないの?」


 彼はそう言ったが、生憎と持ち合わせていなかったので首を振る。


「ならさっさと帰った方がいいんじゃない?」

「そうする……」


 全くもってその通りなので素直に頷いた。

 放り出されていたリュックをのろのろと背負うと、彼はまだそこにいた。


「芦原さんは帰らないの?」

「え?あ、帰るけど」


 まさか私から話しかけるとは思っていなかったのか、かなり焦っていて面白かった。

 私はくるりと背を向けて、気づかれないように笑った。


 次の日私は、案の定風邪を引いた。

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