第32話
ひとりして
夜の、暗い公園で、桜の樹の下で、ひとり酒盃をかたむける。桜の花の時期は終り、葉桜になっている。辺りは、真っ暗である。酒盃を持つ手もみえないほどだ。躰に酔いがまわるほどに、しみじみと淋しさが募ってくる。たまらない一夜である。
樹々が重なりあって森のようになっているところから、抜けると空を見渡せるところに出る。そこに、目に鮮やかな山吹の黄色い花が鈴なりに咲いている。息を呑むばかりである。感動を忘れて久しい私の心に、いっとき爽やかな風が吹き込む。
遠い所での炊き出しに行く道すがら、街のなかを歩けば、花屋の店先に、思いがけない菜の花が売られているのが目にとまる。東京に居ては、もう、何年も見ていなかった花であった。急に、何十年も昔の、せつない思いが心に広がってゆく。
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