第27話

 なく 一人ひとりひとりが 公園こうえん


 なまけているわけではなかった。ただ素朴に打ち込める仕事がなかった。皆ここにいるホームレスたちは幸せになりたかったが、それに手が届かなかったのである。生まれつきの境遇もあるだろう。資質もあるだろう。縁のなかった無念はある。



 長閑のどかにも 目刺めざしをあぶり 小酒宴しょうしゅえん


 捨て置いた七輪しちりんを持ち出して、おきをつくり、鰯干いわしぼししをあぶる。気の合うホームレス仲間と酒をのむ。春の夕陽が酔漢たちの顔を赤く照らしている。七輪から白い煙があがり、鰯の香ばしい匂いが漂う。いつのまにか、野良猫が酔漢たちのよこにいる。



 つよきさけ あおごとくに をよんで


 手ぶら人生は、なにかを思うだけしかなかった。感受性、それだけが財産であった。うまい下手へたは問題にしない。ただ、句をむ。聞かせる者はいない。自給自足である。自分だけにしかわからなくていい。それだけのことである。


 

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