第23話

 春霖しゅんりんや 寝棺ねかんごとく 野宿のじゅくかな


 春のなが雨の降る、深夜の浅草商店街を歩くと、閉まった商店のシャッターのまえに棺桶のようなホームレスの寝床が列をなしている。即席で作った段ボール紙の寝床は凄惨な雰囲気をかもし出して、見る者を圧倒する。



 しや ならぶあとさき にお


 半日かけて歩き通して、ようやく辿り着いた炊き出しの列にならぶと、列の先頭のほうから、いい匂いが漂ってくる。カレーライスの炊き出しは定番だが、飽きることはない。棒のようになっている足をさすりながら、今か今かと気ばかりせく。



 はるや くさむらさわぐ とお


 晴れた日の、春の夜の公園は、いっとき騒がしくなる。もっとも、騒がしいのは気配だけで、音はしない。しないこともないが、ほとんど聞き取れない衣擦きぬずれの音ばかりである。くさむらのなかで色ごとにふける男女を、遠い日の出来事のごとく感じ入る。

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