第22話

 春霖しゅんりんや かさのまま 豆腐とうふ


 春のなが雨のなか、骨の折れた傘をさして、豆腐を買いにゆく。テント小屋暮しといえど雅趣がしゅを捨てずに、土鍋に昆布を敷き、太ネギを入れ、硬い豆腐を湯豆腐とする。熱燗あつかんをつけて、チビチビと、ひとり酒とする。至福のひと時である。



 なんにもできないままはるあめ


 やまない雨の、雨音あまおとを聞いている。テント小屋のなかにせて、幾日が過ぎたことだろう。手許てもとにある食料も尽きて、炊き出しに出向いて歩くこともままならぬ。こううときは、なにも考えられない。ただ、雨音を聞いている。



 しびれ 目先めさきもかすむ はるあめ


 老齢の入口で、からだのあちらこちらにガタが来ている。不摂生の結果か、それとも加齢によるものか、判然としないが、かく、不便な、気落ちする躰になったものである。しかも、この春の長雨ながあめである。鬱々うつうつとするのも仕方がない。

 

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