第20話

 いそぎう 美味うまみしめ ほくそ


 げたてのげ物を、めないうちに、心いそいで食べるときの喜びは、何物にもえられない。しかも、ひさしぶりの食事では、生きるていることで、一番の喜びかもしれない。公園のベンチに坐り、夕陽を眺めながら食べる。格別である。



 鉄鉢てつばちもなく街路がいろ明日あすをみず


 山頭火さんとうかのような僧衣の者ならば、托鉢たくはつの鉄鉢はあるが、ただのホームレスでは乞食こじきをするにしても恰好かっこうがつかない。ただ、せわしなく行き交う人々の街路にあって、呆然ぼうぜんと立ちすくむのみである。さもしく、路上に何か落ちてはいないかと目をこらす。



 ひんしても まだ足腰あしこしの 自在じざいかな


 極貧なのに頑強なからだである。喜ぶべきだろうが、納得はいかない。金持で病弱なら如何いかがであろうか。やはり、納得はいくまい。まあ、頑強な躰だからこそ不平も言っていられるが虚弱だったら、そうもゆくまい。

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