第18話

 つめしわ 樹齢じゅれいごとく なつかしむ


 路上生活をはじめて、もう十年になる。年をるごとに、生活することの重さを思い知る。ただ生きるだけでも、相当にたいへんなことである。爪の皺を見るたびに、あれもあった、これもあったと、良かったときを思い出すようにしている。



 げたての すずめおどりで いそぎ


 ときには奮発して、買い食いをすることもある。揚げたてのコロッケなどは、何にもまして美味うまい。いっとき、自分がホームレスであることを忘れる。しかし、街ゆく人々は急ぎ足で、私のよこを通りすぎてゆく。



 散歩道さんぽみち 足曳あしひきながら をひろい


 土工仕事で、足首を捻挫して、足をきずりながら歩き、風流ふうりゅうのふりをして、俳句などをひねってみる。しかし、素人しろうとゆえに駄句だくばかりで、いっこうにたいを成さない。しかし、くこともなく句をひろう。空を見ては一句。雲を見ては一句と。

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