第17話

 われひとり 絶望ぜつぼうテントの 遅日ちじつかな


 何もしたくない春の日は、時間の経過が遅い。何もすることがなく、しないといけないこともない。ふところの金で、多少の余裕があると、怠惰たいだに時を過ごしてしまう。結局、思考は堂々巡りになり、何もなせぬままに終る。今日も、そうである。



 テント屋根やね たまりしあめの 夕暮ゆうぐれや


 夕立ゆうだちがきて、テントの屋根が下へとゆがんでいる。屋根にしてある木材と木材のあいだのブルーシートに雨が溜まっているのである。雨がやみ、外に出てみると小さな水溜まりができている。それは夕陽に照らされて、美しい。



 つめしわ 年波としなみと なつかしく


 随分長く生きていると、爪にも皺が寄る。皺は顔だけではない。爪にも皺はでき、年輪を刻んでいるようだ。爪の皺を、じっと見て、そして、思うことはない。ただ、無為の時間の長かったことを、茫漠と感じるばかりである。

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