第14話

 春寒しゅんかんや かん燗酒かんざけ こもりゆき


 テントの外は寒い。幾分、風も吹いている。缶のワンカップ酒を湯煎ゆせんして、燗酒かんざけとする。さかなした烏賊いかの足である。ひとり、テントのなかにこもっていると、ひしひしとわびしさがいのぼってくる。そうう晩はなかなか酔わない。



 春寒しゅんかんや テントのかべを ゆらしけり


 ラジオをつけてみるが、外を吹く風が強くなって、よく聞こえない。テントのブルーシートの壁をブルブルふるわせて、いよいよ聞こえない。ラジオを消して、風の音を聞く。酒の味と、烏賊いかの味と、風の音を味わう。



 あおテント こときれるまで なが


 こうう晩を幾日も過ごして、その先にあるのは自分の死である。しかし、自分の死を確かめることはできない。一番重大な事柄が、自分を抜きにする滑稽さはどうだろう。莫迦ばか莫迦ばかしいかぎりだ。

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