兄様

それから2時間ほど高速を走った後、ようやくテーマパークに着いたのだがそれからの鈴音は終始年齢相応の子供のようになっていた。

まるで目に焼き付けようとしているかのように同じ景色をじっと見つめたかと思うと、あちらこちらに忙しなく顔を向け、うっとりとしたような表情でどこへともなく歩き出すなど、目を離すとどこかに消えてしまうのではと心配になるほどだった。

ここに来て初めて知ったことだが、鈴音はどうやら極度の高所恐怖症らしく、そのためパーク内ではもっぱら子供向けになっているキャラクターの乗り物や、ショーを見ることが中心だったが、ただ歩いてるだけで幸せそうに見えたので幸寿はほっとした。

それとともにこれも初めて感じたが、鈴音は想像以上に周囲の注目を集めるようだった。

幸寿は慣れてきているせいかそこまで感じていなかったが、鈴音の容姿はかなり人目を引くらしく、行き過ぎるほとんどの人がこちら、いや鈴音を振り返っている。

「あの子、芸能人かな」

「モデルじゃない?」

そういった声が聞こえるたび、バレるわけ無いと思いながらも幸寿は鈴音の正体の事を考え不安になる。

「どうしたんですか?キョロキョロして」

不思議そうに訪ねる鈴音に返事しようとした時、突然背後から声をかけられて驚いて振り返った。

するとそこに居たのは二人の男女だった。一人はカメラを持っている。

「すいません。突然声をかけて。私たちはこういう者ですが」

そう言って差し出された名刺を見ると、幸寿も聞いたことのある有名なティーン向けのファッション雑誌の名前が書かれていた。

「もし良かったらそちらの女の子の写真を撮らせて頂ければと。あと、保護者様のご許可を頂ければ掲載も出来ればと」

まさかこんな場に居合わせる事になるとは。

確かにこれだけの容姿であれば、声をかけられない方がおかしい。

幸寿が舞い上がってしまい返答に困っていると、鈴音が丁寧に頭を下げた。

「すいません。お話はうれしいのですがそういったことは恥ずかしくて」

それから幸寿の腕に自らの腕を絡ませると言った。

「行こう、パパ」

一連の対応があまりに自然だったので、幸寿はあっけにとられていた。

「なんか・・・慣れてるね」

鈴音はそれに答えず、夢を見ているような表情で言った。

「すずはあなただけのものです。兄様」

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