メックダヌルズ・ウォー その③

 きのみは、内向的で陰キャであるが超見栄っ張りである。


 したがって、店舗に入る時も「しょしょしょ初心者でふ! あのあのあのあのちゅきみばーが!」みたいな慣れてない感じを出したくないのである。


 むしろ「久しぶりに来てやったZe☆ いつもの頼むね」くらいの超スマートで手慣れてる感じのかっこいいやつをやりたいと思っている、たとえファーストフード店であっても!


 なので、移動時も頭の中でロールプレイは欠かさない。



「まず、列に並ぶ……、並んでいるときもきょろきょろしない、なんかダルそうに携帯いじって、こう、緊張してない感じを……やる」

「慣れてる感でアプリのクーポンを見せびらかしながらこれ、みたいな感じでスマートにやる、出来る、ボクは出来るにゃ……つよいこ……!」

「決済はなに使えるんだろ……V〇SAでたっちとかかっこいいかな、うん、それで……!」



 この圧倒的な事前準備。


 きのみに敗北などありえない。


 常に完璧、いわばパーフェクトヒューマンなのである。



「お待ちの方どうぞ」



 呼ばれたっつっつっつっつうttっつっつっ!!!


 きのみは動揺を隠しながら、カウンターへ向かう。


 妙齢のおねえさんは、笑顔だ。


 ええと、はじめは。


「デリバ……っ、はっ……テ、テイクアウトで(超小さい声)」


 おねえさんは首をかしげる。


 どうやら聞こえてなかったようだ。


 だが、きのみはすでに一手目をミスったと感じていたので、スマート感を取り戻すべく、アプリのクーポン画面をにょきっと見せ、



「これでお願いします(かなり作った声)」



 と、のたまった。


 ふ……、と、きのみはやってやった感を出す。


 よくやった、きのみ。


 えらいぞ、きのみ。


 すごいぞ、きのみ。


 自画自賛のハレルヤ満開、天使が脳内を舞う中、ちら、とおねえさんを見ると、


 


 そして、


「あの、番号でおっしゃっていただけると……」



 きのみの頭は真っ白になった。

 

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