第34話 帰還と報告

 ギラの大墳墓迷宮調査から3日後。


 調査を終えて王都へ帰還したネイサンは、王宮に登城して国王に結果を報告していた。


「……以上から、やはり以前出現したオルマールとギラの大墳墓迷宮には大きな関係がありました。さらには五千年前の古代文明であるメンフィス王国。それと古代ガラル帝国の関係など様々なことがわかりました」


「ふむふむなるほど」


 国王カール5世は髭をしごきつつ一応真面目くさって聞いているものの、目線はチラチラとネイサンの後ろへと向いている。


「私がガラル魔法を復活したことによる直接の影響があるかは、まだわかりません。これからの調査次第ですね。ただ大墳墓迷宮がガラル魔法によって運用されていたことを考えると無関係とはいい難く…………あの〜、陛下?」


「むっ、なんだ?」


「その、なにか気になることでも?」


「気になるといえば先程からものすごい気になっているのだが……、さっきから君の後ろに控えている、その褐色の美しい女性は一体何なのだ? 初めて見る顔だが」


「ああ、彼女はスフィンクスです」


「スフィンクス!?」


「謎掛け問答を挑まれて正解したら、守護神獣になってしまいまして」


「守護神獣!!?」


「私を守るために傍に控えているだけですので、どうかお気になさらず」


「そんな重大情報を話されてて気にするなというのは無理だぞ!!!?」


 驚愕して叫ぶ国王。

 ネイサンはまるでなんでも無いことのように言っているが、国王にしてみれば大衝撃だった。

 は〜〜、と額をもみながら疲れたように国王が言う。


「いいかネイサンくん、そういう重大な情報は早めに教えてくれ。正直ガラル魔法で起きる物事は余等にとって規格外すぎるのだ」


「すみません。まあ僕にとっては新しい仲間が一人増えたくらいのものだったもので」


「国家すら守護できる神獣を新しい仲間の一言で済まさないでくれ……」


 再びため息を付くのをどうにかこらえつつ、国王は言った。

 すでに国事に関わる様々なことを経験してきた海千山千の国王だが、ネイサンと関わってからは毎日驚かされることばかりだった。


「まあまあ、ハウルのことは後でゆっくりと紹介致します。それより今は大墳墓迷宮の調査結果と、今後の探索計画を練りましょう」


「守護神獣を連れ帰ったと言うだけで本当は騎士団長と宮廷魔術師を巻き込んで緊急会議を開くでレベルのことなんだが……ああ、まあいい。たしかにいちいち驚いていたら話が進まんな。続けてくれ」


 国王が姿勢を正し、今度こそ、ネイサンに視線を据える。


「はい。結論から言いますと、ミストリア王国の戦力では大墳墓迷宮の探索、攻略は非常に困難です。まず99%失敗します」


「それほど、難関なダンジョンか?」


「自分も駆け出しとは言え冒険者ですし、普通のダンジョンがどのようなものか知っています。そして実際に大墳墓迷宮を調査してみてよくわかりました。大墳墓迷宮は普通の冒険者や騎士が絶対に挑んではいけないダンジョンです。あそこにAランク以下の冒険者パーティや騎士団をどれほど投入しようとなんの意味もありません。全滅します。実際調査団も私がいなければ全滅していました」


「ふーーーむ」


 国王はさすがに唸ったきり言葉もない。


 賢明な王であるカール5世は、自国の冒険者や騎士団の強さをよく知っている。過大評価はしてないものの、他国から比べても1級の水準にあると考えている。だからこそ大陸で高い地位を得ており、他国の侵略に悩まされることなく平和でいられるのだ。


 愛国心や矜持とはまた別の所で、自国の戦力を高く評価していた国王は、ネイサンからピラミッドにはまったく歯が立たないと言われて衝撃を受けていた。


「……何度も聞いてすまんが、我が国の騎士団や一般冒険者では攻略は不可能というのだな」


「はい。陛下もガラル魔法の強力さはよくご存知のはず。ガラル魔法によって堅固に守られた迷宮の攻略がいかに難しいか、想像がつくのでは?」


「ふーむ、しかしでは、どうするのだ? 攻略を諦めるのか? 魔物があふれる危険がないのであれば、それも一手だが」


「いえ、大墳墓迷宮の攻略は致します」


「ほう?」


「ああ、別に迷宮が危険だからではありません。ハウルに聞きましたが、いま大墳墓迷宮は一時的に活性化して魔物を大量に生み出しているだけで、しばらくすればおさまるとのことです。大量に生まれる魔物も、私がゴーレムを設置しておけばダンジョンの外に出るのは防げるでしょう」


「ほう、ではなぜ大墳墓迷宮の攻略をするのだ?」


「決まっています! それが『アルマゲスト』を手に入れるために必要だからです!」


 威風堂々と、高らかに、ネイサンは宣言した。ちょっとかっこいいポーズまで決めている。


 一方、国王はぽかんとしている。


「『アルマゲスト』?」


「ご存知ないのですか!?」


「あ、ああ知らん」


 ぎゅいん、と異様な迫力で顔を近づけてきたネイサンに、国王はわけもわからず恐怖を感じた。


「アルマゲストは古代ガラル語によって書かれた、天文学における伝説的名著です! そう、今ままではただの伝説でしたが、ついにそれがどこにあるかわかったのです! 天空都市にあるそれを私は絶対に手に入れてみせます! ふふ、ふふふふふふふ!」


 この男、ガラル語のことになるとちょっとおかしくなるのか……と国王は少し引いていた。


「そ、そうか……」


「わかってくださいますか!?」


「いや、正直さっぱりわからんがお主の熱意は伝わった」


 コホン、と咳払いして国王は襟を正す。


「しかしどのように攻略するつもりだ。我が国の騎士団や冒険者をいくら集めても意味がないのであろう?」


「ええ。ですから最強攻略パーティを作ります」


「攻略パーティ?」


「ええ。冒険者で言えばSランククラスでまとめたパーティを結成します。もちろんすぐにとはいかないでしょう。メンバーを集めるだけで半年……もしかすると一年以上かかるかもしれません。もちろんメンバーの選定には僕が関わります」


「ふーむ、ミストリア王国最精鋭パーティを作るというわけか」


 髭をしごきながら国王カールが頷く。


「少数精鋭のほうが、生存確率が上がるということかな?」


「はい。先程も話した通り第墳墓迷宮には数の有利は効きません。それから……これは国の正式な調査ではありますが、やはり大勢の前でガラル魔法を頻繁に発動するのは良くないと思います」


 ガラル魔法はなるべく秘密にしておきたい。それはネイサンの変わらない思いだ。

 国王は大きく頷いた。


「よしわかった! 予算は十分に手当する。お主の考える最高の攻略パーティを結成してくれ」


「よろしいのですか」


「うむ。いささか子供じみた計画名なのが気恥ずかしいが、ミストリア王国最強パーティを結成しよう。期限は最長2年。パーティは最大7名でどうだ」


「最良と思います。陛下」


「よかろう。では改めてネイサンに依頼する。王国最強のパーティを持って、ギラの大墳墓迷宮を攻略してくれ!」


「任せてください。願ってもないことです」


 こうして、改めてギラ大ピラミッドの本格攻略が行われることとなった。



 ◆◆◆◆



 話し合いを終え国王のもとを辞去したネイサンの姿を密かに見つめる人物がいた。


「あれは……まさかネイサンか? ずいぶん若返っているが」


 アガルマ教授が訝しげにネイサンの姿を見つめる。王宮にやけに年若い青年が出入りしているのを見て、気がついたのだった。


「どうしてあいつがここに。いや、それよりもあの若返りはいったい……?」







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