第28話 アガルマ、ついに報いを受ける
ミストリア王国王宮内、鷲の間。
ここもまた宮殿における謁見用の広間だが、華美な内装はなく重厚さと威厳に満ちていた。
パーティや祝賀行事といった華やかな儀式よりも、法律の公布や犯罪貴族の処罰など硬く重苦しい発表に使われる場所だ。
ここに賢者アガルマ一人が呼び出されていた。以前の、ガラル魔法の披露時とはうってかわり、玉座の国王も居並ぶ廷臣も重苦しい顔をしている。
「賢者アガルマよ。この数ヶ月の体たらくについて弁明があれば述べてみよ」
「ははーっ、国王陛下のご期待に添えないことはこのアガルマ、恐懼の至りでございます。ですがもうしばらくお待ちいただければ、ガラル語の解読は必ず……」
「その言い訳はもう聞き飽きた!」
国王カール5世が鞭打つように叱責する。
「余は確かに言ったな、あと一月だけ猶予をやると。その一月を過ぎて貴様はなんの成果を上げていないではないか! なにが賢者だ、なんの仕事もできないではないか。まだ王宮厩舎の馬のほうが国の役に立っているぞ!」
「な!? 陛下、いくらなんでも私と馬を較べるのは馬鹿にするにもほどがあります」
「黙れ! 貴様がどれだけ余らを愚弄していると思っている。研究成果一つ上げられず言い訳と責任転嫁ばかりで少しは恥ずかしいと思わないのか?」
「ぐぅっ……」
重ねて叱責を受け、アガルマは黙り込む。生まれてきてからこれほどの侮辱を受けるのは初めてだった。すべて自身が招いたことなのだが……。
黙ったアガルマを尻目に、国王が書記官から紙の束を受け取る。合図して、同じ内容のものを書記官からアガルマへと渡した。
「アガルマよ、余はこの一ヶ月をお前に期待して何もせず待っていたわけではない。お主とジェイル、並びに王立研究所は内々に調査させてもらった。その報告書がこれだ」
「なっ!?」
アガルマが瞠目する。報告書には表紙に飾り気のないシンプルな文字で『アガルマ研究室における研究環境の悪化、特定研究者への虐待、暴言、成果簒奪、並びに不当解雇について途中報告』と書かれている。
タイトルを読んだだけでアガルマの顔から冷や汗が滝のように流れ出した。
自分に甘く他人に厳しいため現実認識のできないアガルマだが、さすがに今どれほどまずい立場にいるかは悟ったらしい。
「この報告書によれば、アガルマ研究室では数十年に渡って陰湿な虐待と不当行為がはびこっていたらしいな。証拠の残っているだけでもこの数年確実に。きちんと証言の裏取りをしたら、どれほどの被害が出てくるか想像もつかん。余は最初の数ページ読んだだけでめまいがしてきたぞ。これが天下に誇る我が国の研究室か?」
「お、……」
「しかも報告書によればガラル語を本当に解読したのはジェイルでもアガルマでもなく別の3級研究員だという。貴様たちはそれを盗んで自分の物にしただけだと。研究成果の盗用など研究者として最も恥ずべき行為だ。違うか?」
「お、おお……」
「しかも貴様らはその研究者を自分たちの身分を守るために、あろうことか追放し馬車から突き落とすまでしたという。もはや完全な殺人未遂、犯罪者だ。余はこれが国の叡智を司る者たちの所業だとは考えたくない」
「おおお、お言葉ですが……」
「黙れ!」
弁明しようとするアガルマを国王が一喝する。
「どうせまた愚にもつかぬ言い訳を並べ立てるだけであろう。聞きたくない。すでになにも聞かずとも調べは終わっておる。あとは貴様らの処分を考えるのみだ」
「ひ〜〜〜〜〜〜〜!」
「まずはアガルマよ、貴様の賢者称号は剥奪する! 教授職へと戻り、自身の研究室の精算をせよ。その浄化具合を見て今後の処分を検討する。もしまだこの期に及んで自身を庇い立てするようなら……わかっておるな?」
国王にじろりと睨まれて、アガルマは縮み上がった。
「も、申し訳ありませんでした! 直ちに善処いたします」
賢者としての威厳はどこへやら、ほうほうの体でアガルマは御前を下がる羽目になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます