第11話 ジェイルの最盛期
ネイサンから研究成果を横取りした張本人、ジェイルとアガルマ教授は今日も王宮に招かれていた。揃って礼装を身に着けた二人は、自信に満ちた態度で宮殿内の廊下を歩く。
「王立研究所より、アガルマ教授、並びにジェイル一級研究員、登城いたしました!」
謁見の間にやってきた二人は、恭しくひざまずいた。玉座にはミストリア王国国王カール5世と王妃が座っている。
両脇には高位貴族や王宮の重臣たちが居並び厳粛な雰囲気を醸し出していた。
「王立研究所よりアガルマとジェイル、お招きに預かり参上いたしました」
「うむ。忙しいところ連日すまんのう。今日は早速だが噂の古代ガラル魔法を見せてはくれんか?」
国王がそわそわしつつ促した。居並ぶ貴顕淑女もまた興味津々といった顔をしている。
アガルマ教授に目線で促されたジェイルは、立ち上がりニッコリと微笑んだ。
「もちろんです陛下。早速ご披露いたします。……まずは、光の魔法です。恐れながら陛下並びにご貴族の皆様、手で目をかばっていただきたく存じます」
「それほど強い光を発すると申すか!」
国王たちが驚きながら手や扇で庇を作ると、ジェイルが杖を構えガラル魔法を詠唱した。
「ルミノウスグロウ!」
ジェイルの杖から真っ白な閃光がほとばしる。王宮広間に点けられている灯りは決して弱い光ではなかったが、それを圧倒する強烈な光が生み出された。
「おおおお!」
人々からざわめきが漏れる。皆これほど強い光魔法を見るのは初めてだった。日常的に接する魔法だからこそ、その強力さ、持続時間の長さなどが一線を画すものであることがすぐに覚られる。
列席していた宮廷魔術師たちは、その魔法がほとんど体内の魔力を消費していないことにも気づき驚嘆する。
「なんとも強い光じゃ。目が焼かれるというのは誇張でもなんでも無い。」
国王が感嘆の声を漏らした。
ジェイルは光を消すと、次の呪文を詠唱する。
「続きましては……ヴェンティソニック!」
突風が広間内に出現する。模擬演出用に用意されていたワインの空き瓶が、風に煽られ舞い上がる。さらにはそれを置いていた机さえもが、風に煽られ螺旋を描いて宙に舞った。
「なんと! たった一節の詠唱でこれほどの威力とは……」
感に堪えぬという風に国王が唸る。
「一人でこれほどの威力を発揮できるなら、魔術師の戦い方が一変するぞ。魔物討伐でも戦争であっても、ガラル魔法さえあれば負けることはない」
続けて、脇に控えていた家臣の一人に話しかける。
「宮廷魔術師長サルマン。そちはどう見る?」
「はっ、古代ガラル語魔法、聞きしに勝る威力とお見受けしました」
ミストリア王国に仕える魔法使いの頂点、サルマンは額の汗を拭きながら答える。
「最初に見せていただいた光の魔法も、風の魔法も、想像を絶する威力です。しかもこれほど大規模な魔法を行使しながら、ジェイル殿はほとんど魔力を消費していない。これまでの魔法技術体系がひっくり返る大変な革新です。我が国の魔法技術は、一挙に百年以上は大進歩をするでしょう」
宮廷魔術師長さえにも認められて、ジェイルは大得意だった。王国魔法界頂点の世界に、足を踏み入れたも同然だからだ。
国王がジェイルに目を向ける。
「ジェイル一級研究員、アガルマ教授、二人共よくやってくれた。我が国の歴史に残る大成果じゃ。褒美はもちろん、二人の地位も昇進を約束しよう。ジェイルは教授、アガルマ教授は賢者に昇格じゃ」
「「ははーっ、ありがたき幸せに存じます」」
「ガラル魔法は我が国に、まさに莫大な利益をもたらすであろう。二人共誇るが良い。そなたらは国の英雄も同然じゃ。……今夜は儂の名で宴を準備しておる。二人共心ゆくまで楽しんでいってほしい」
「ははーっ」
陛下の言葉とともに、居並ぶ宮廷の貴族から盛大な拍手が贈られる。
アガルマ教授ももちろんだが、ジェイルの内心は喜びで爆発しそうだった。
『やった! やった! 私が教授だ! ゆくゆくは賢者にだってなれる! 20代で教授! 賢者! 私の人生はこれからずっと勝ち組だ! ネイサンのやつは馬鹿だ。研究なんて地味な努力家にやらせて成果だけかっさらうのが一番効率いいんだから』
内心でネイサンを馬鹿にしつつ、今後の人生設計について夢をふくらませる。
『グリモワール1巻の解読はほとんどネイサンが終わらせている。2巻以降は私と教授で訳していけばいい。は、はは、これから何個の新魔法を生み出せるのか、見当もつかないな。私は確実に教科書にのるぞ……! 名誉だけじゃない。ガラル魔法の使用料だけでどれほど儲かるかわからん。これから王国の魔法はすべてガラル魔法に変わると言っても過言ではないのだから。バラ色だ! バラ色の人生だ! 金が入ったら王都にでかい家を買おう。庭園付きの豪華なやつを! 美女だって選び放題だ。貴族の娘とだって結婚できるかもしれない。ゆくゆくは私が貴族となることも……ふふふ、あははははは!』
ジェイルの胸は、誇らしさでいっぱいだった。
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