楽園のカケラ

94

楽園のカケラ

 深い森の奥に、光が差していました。


 光は石を照らし、水面を照らし、草花を照らし、樹々を照らし、虫や魚や、動物達を照らしていました。


 ある時、そこへ一人の人間が現れました。


 人間は光に照らされ、幸せになりました。


 暫くして、人間は倒れました。


 その肉を鳥や獣が食べて骨だけが残りました。


 そこに落ちた種が芽生えて骨に絡み付きました。


 幾許かの月日が経って、誰もがその人間の生きていた時の姿を忘れると、人間の骨の下から、小さな人間のカケラが現れました。


 カケラは蔦が巻き付いた骨をよじ登り、その蔦の花の上に座りました。


 光はカケラを照らし、カケラはそれに応えて、ぼんやりと光を放ちました。


 すると、人間のカケラの光に、他のカケラ達が集まってきました。


 カラスのカケラは、人間のカケラに触れました。


 玉虫タマムシのカケラは、隣に座って光りました。


 目高メダカのカケラは、水滴を抱えていました。


 ウサギのカケラは、頭を擦り付けました。


 守宮ヤモリのカケラは、舌を伸ばして舐めました。


 百合ユリのカケラは、美しい花弁を差し出しました。


 鳳仙花ホウセンカのカケラは、種を一粒差し出しました。


 サクラのカケラは、離れて皆を見守っていました。


 人間のカケラは、きらきらと輝きました。


 そして、光に近いカケラから、その体がどんどんと砕けていきました。


 粉々になったカケラ達の体は、風に乗って空へ舞い、光に照らされてさらさらと輝きました。


 カケラの粉は、森中に広がって消えました。


 跡には、光が差していました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

楽園のカケラ 94 @kyujuyon94

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

同じコレクションの次の小説

★6 SF 完結済 1話