第3話
風強かったなぁ。最悪、絶対前髪崩れた、、、。
スマホを暗転させて、その反射で前髪を直す。
うん、これで可愛い。
この駅にあるお店にも随分慣れたものだ。最初にビクビク怯えながら入っていた頃の自分が可愛らしく思う。スマホをポッケにしまうと、丁度、壁に貼られた大きな鏡に自分が映る。毛先の巻いたポニーテールに、二回折られたスカート。足首の見える靴下。彼女みたいになりたくて、頑張り始めてから、一ヶ月程度。前は二時間も早く起きていたのに、最近はいつも通りの時間で間に合うくらい準備も早くなった。それに、クラスの子達の話にも、完全にとは言い難いがそれなりに入れるようになった。今の私なら、彼女の横にいても見劣りしないだろう。一ヶ月前の彼女であれば、の話ではあるが。私が頑張って彼女を追いかけている間、彼女が私を待っていてくれる事はない。彼女だって毎日どんどん可愛くなっていく。
はぁ、、、
悲しみや疲れの混じったような、暗い顔の自分が鏡に映る。
もっと、頑張らないと。
焦る気持ちが抑えきれず、無意識のうちに早歩きでお店へと向かう。
どれにしよっかなぁ〜。
しかし、いくら急いだとしてもついた先で結局時間がかかってしまうのはいつもの事だった。
スマホと商品を何度も往復する視線。見慣れたサイトには、「自分の気になる色で試してみてね。」とご丁寧にも書かれているのだが、気になる方と言われても、全部気になって決まらないから調べているのだ。
暖色系か、寒色系か、、白とかも、、、
そういえば、彼女は淡いピンクのものを使っていたはず。彼女が使っている物なら、間違いないだろう。長考の末、結局私は淡いピンクのネイルを持ってレジに向かった。
帰ったらまずは、クラスの子が話してた新作のアイシャドウを調べないとだよね。あとは、さっき買ったネイルも試してみて、、、
スクールバッグに付けたぬいぐるみ型のキーホルダーを揺らしながら帰路に着く。ローファーのカツカツという足音は心なしか明るい。そんな私の浮ついた心を現実へ戻すように、スマホが通知を知らせる。
「今週末、二人でどっか行かない?」
それは彼女からの連絡だった。跳ねるような先ほどまでの明るい足音は止まる。続くのは急いで来た道を戻る足音。立ち尽くすことしか出来ないエレベーターの中で、何か出来ることはないかと先ほどまで見ていたサイトのタブを開く。まだやっていなかった残りの四分の一。そこには「可愛いを身につけよう! ファッション特集!」と書かれた小見出しがあった。ジャンル別に目次が書かれているものの、ファッション用語であろうそれらではどんな洋服かもわからない。必死にスクロールして全てに目を通していく。
彼女に似たやつ、、どれだろ、、、
エレベーターが到着を知らせるアナウンスと同時に、いかにも彼女を彷彿とさせる洋服の写真が目に入った。ジャンルとしては韓国コーデというらしい。以前放課後に会った時の彼女の服装。それと同じような洋服が多く掲載されていた。着いたのは普段は来ない洋服がメインのフロア。制服に頼りすぎていた自分にとっては未知の世界で、可愛いなと思う服は沢山あっても、どれをどう着ればいいのかは全くわからない。みんなはこれを自分で選んで着こなしていたと思うと、今の自分はその足元にも及ばないほど未熟だ。だから、サイトを見た限りで韓国風に近そうな服の並ぶお店へと足を運べば、「あの、韓国コーデっていうのに挑戦してみたいんですけど、、。」とすぐにお店の人に助けを求める。
店員さんは私を嘲ることも、置いていくこともしない。仕事だから当たり前なのかもしれないが、たとえ表面上だけだとしても、私が安心して話すことができる存在。それにもっと早く気づけていれば、もっと早く彼女みたいになれただろうに。周りからすれば小さな後悔を深く思いながら、店員さんに見繕ってもらった服を試着する。そこにいる自分は本当に彼女のようで、可愛くて、一ヶ月前の自分に見せてあげれば、さぞ喜ぶことだろう。その後もバッグや靴、アクセサリーなどの小物類を全て店員さんに勧めてもらった物で合わせていく。お店のロゴが表記された大きい紙袋。それを大事に持ちながら、「いいよ! 遊びに行こう。」と連絡を返した。
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