愛すべきラスボスたち
愛すべきラスボス① 大魔王バーン(ダイの大冒険):正義の対極にある、もうひとつの真理
ネタ切れかと思いきや、いきなり始まりました新シリーズ(笑)。
今シリーズではやられ役の中でも、作中で最も重要な役割を担う存在 ”ラスボス” を語って行きたいと思います。
まず最初に誰よりもピックアップしたいのは、漫画 ”ダイの大冒険” に登場するラスボス、大魔王バーン様です、例によってキャラ紹介を少し。
かつて世界を席巻した魔王を倒した勇者アバンに弟子入りした少年ダイ。ところが修行中に、復活を果たしたかつての魔王ハドラーがアバンを倒そうと襲ってきます。
その際にハドラーから語られた真実。自分の上にはまだ大魔王バーン様と言う存在がいると聞かされ、ダイ達を絶望させました。
アバン決死の
やがてダイ達パーティが艱難辛苦の果てに次々と強敵を打ち破り、事態を重く見たバーンはいよいよ腰を上げ、ダイ達の前にラスボスとして立ちはだかる事となります。
元々がゲーム『ドラゴンクエスト』のオマージュ作品として世に出た本作。ある意味予定調和のドラクエ物語に、作者独特の味付けをしただけの無難な作品だろうなー、と高をくくっていましたが……。
まさかここまでの名作になろうとは、連載開始当時は思っても見ませんでした。
何よりどのキャラクターもめっちゃ輝いているんですよね。登場人物の誰を語っても一言二言では収まらない、深い深い『業』を持っているんですよ。
お約束の勇者、魔法使い、武道家、戦士はもちろんのこと、王様、お姫様、付き人、脇キャラ、家族、刀鍛冶。敵キャラにしても武人から残虐、正統派に卑怯者まで実にしっかりと作り込まれた
決して主人公が「えい! やー、たぁー!」で卑劣なだけの敵をカッコよく薙ぎ倒しているような、そこらの薄っぺらい物語とは違うのです。
その中でも私にとってこの作品を最高評価に押し上げたのが、ラスボスである大魔王バーンの存在なのです。
普通、ファンタジー系のラスボスって、とかく強さと『悪』なだけがアピールされていて、最初は確かに無双するけど、そのうち主人公が覚醒したらわりとあっさり倒されたりする輩が多いんですよね。
なによりそういうキャラに『業』が無い場合がほとんどなんですよ。業と言うと分かりづらいかも知れませんが、『生き方』というとピンとくるかもでしょう。
ファンタジー系によくいるのが「人間の苦しみが我が喜び」とか「我は人類より上位なので下等生物など駆逐してくれるわ」なんていう、いかにもとってつけたような理由でラスボスやってるヤツなんですよね、そこに「キャラクター」としての説得力、つまり行動理念や主義主張と言った、踏み込んだ解釈はまぁまずありません。
ですが、この大魔王バーン様は違います。
彼の目的は、かつて自らを虐げ、荒廃した魔界へ押し込めた神々への復讐として、地上を消し去って魔界に太陽の光を届かせる事なのです。
彼は大魔王でありながら絶対悪ではなく、むしろ魔界を繁栄させるための一大事業として、神に
また、彼は自然界の法則である『力こそ正義』を真理として、頑なにそれを曲げませんでした。
平和な人間社会ではそれは暴力として否定されるべきものですが、戦乱の魔界ではむしろそれこそが絶対だったのです。逆に言えば力のある者が押さえれば、争いは無くなるのですから。
最初のダイ達とのパーティとの戦いの最中、ダイ、ヒュンケル、クロコダインの主戦力の3人が倒された時、残されたポップとマァムに大魔王は、戦いながら己の主張と正論を叩きつけます。
「鍛え上げて身につけた圧倒的な力で弱者をあしらう時、優越を感じないのか?」
この言葉の肝。それは最初にある「鍛え上げて身につけた」にこそあります。力こそが正義の世界で、努力の大切さを最初に述べているのですから、さすがに反論のしようがありません。事実この一言で、正義感の塊みたいなマァムすら思わず絶句します。
その後、バーンは二人に己の目的や克己、正義を語って聞かせます。
「我らが故郷、魔界はこの地上のはるか地下に存在する。マグマがたぎる見渡す限りの不毛の大地」
「太陽……素晴らしい力だ。だが、神々は地上(太陽)を人間に与え、魔族と竜を魔界に押し込めた!」
「間もなく地上は消えてなくなる、そして我らが魔界に太陽が降り注ぐのだ」
「その時、余は真に魔界の神となる。かつて神々が行った愚行を余が正すのだ!」
ぶっちゃけ、この状況でバーンが二人にンなことを語る必要なんてありません。両者の必殺技もあっさり破られていて、仲間も全員グロッキー。その気になればあっさり二人を始末できるでしょう。
でも、バーンはあえて暴力ではなく、言葉で二人を殴り倒しました。それは単に力だけではなく『戦う理由』でも自分の方が上であると示して見せたのです。
この堂々とした態度、明白な目的意識、そして自らの芯を支える(力こそが)正義の心。
自らを高め、万難を排し、敵であろうと裏切り者であろうと、力を持つ者には敬意をもって接する。まさに組織のトップとしての不動の意思と力を持った、ラスボスに相応しい存在感を見せつけてくれるのです。
ダイとの最終決戦においても、バーンは度々その意思と正論をダイに語っています。
「余の部下にならんか?」
お約束の言葉の後、バーンは穏やかに、しかし確かな説得力も持って自らの正義を語ります。
「人間は最低だぞダイ。お前ほどの者が力を貸してやる価値など無い」
「余に勝って帰ってもお前は必ず迫害される」
戦いに参戦していたレオナ姫はその言葉に「自分たちは絶対にそんな事はしない」と反論しますが……
「それは姫よ、そなたがダイに個人的好意を感じているからにすぎん」
あっさり論破されます。恋心まで心得てるのかこの大魔王は。
「だが、余は違う。余はいかなる種族であっても力のある者に差別はせん」
この勧誘にダイは「NOだっ!」とはっきり答えます。もし本当に人間が自分を否定するなら、自分はこの地上を去る、とまで付け加えて。
でも、それを語る時のダイの表情は、実に晴れやかでした。
それは今まで、恐ろしい存在でしかなかった大魔王バーンの懐の深さに触れたからでしょう、そしてそんな彼に対してはっきりと、そしてまっすぐにNOを返したのです。
この時ダイはある意味、バーンを尊敬し、敬意を払っていたのかもしれません。この時だけは、ダイにとってバーンは大魔王ではなく、人生の先達、あるいは先生のように思えていたのではないでしょうか。
その後、戦いはまずまず激烈を極めます。バーンが自らの肉体を蘇らせ、ダイたちは総力戦で挑み、ついに決定的なチャンスを掴みます。
だがここでバーンは、もう地上破滅が最終段階に入った事を告げます。その際のダイとの会話もまた、バーンという男の深さをありありと示していました。
「念のために聞いておこう、お前は余を殺すために戦いを始めたのか?」
「違う……俺が戦いを始めたのは、地上のみんなの平和を、守……」
「その守るべきものは、もう消える……消えるのだ」
最後の最後、ダイに必殺の一撃を加えたのは、またもバーンの『言葉』だったのです。
言葉で言い負かされるという事は、自らの「正義」が敵の「正義」に負けたという事に他なりません。ダイが憎しみのままに自分を殺すような男でないことをしっかりと汲み取って、実の無い戦いを止めさせて見せたのです。
その後の語りからも、バーンは少なくともここまで生き残ったダイとポップを、そして宝玉にされた他の勇士たちも殺す気は無かったようです。
「力こそ正義」を旨としてきたバーンにとって、ここまで戦いを生き抜いてきた彼らは尊敬に値する存在だったのでしょうから。
ここから『神の涙』ことゴメちゃんの奇跡で地上破滅は阻止されます。しかしバーンはひるむこともめげることもなく、自らの計画を貫徹しようとします。
折れない、諦めない、覆されない鉄の意思。バーンの恐ろしさはなによりこの精神性にこそあるのを、はっきりと示して見せました。
ダイが竜魔人の力に目覚め、その荒ぶるままにバーンをどつきまくりながら、ダイは涙を流してバーンに言葉を叩き返します。
「これがっ、これが正義かっ! より強い力でぶちのめされればお前は満足なのかっ!」
「こんなものが……こんなものが正義であって、たまるかぁっ!」
暴力を是とせず、高ぶりに任せて相手を殴る自分自身を嫌悪し、悲痛な叫びと共に大魔王にパンチをぶち込み続けます。それはまるで戦いながらバーンに「お前は間違ってる!」と叫び続けているかのようでした。
ですがバーンはそれでも、それでも、折れませんでした。
「負けぬ、負ける訳にか行かぬっ! 余は大魔王バーンなり!!」
何千年、何万年と魔界で戦い続け、力をつけ続けてようやくたどり着いた大魔王の地位。その長年の努力を今更否定する事など、彼には微塵も無かったのです。
――例え自分以上の強者が、目の前に現れたとしても――
バーンは最後、自分の未来すらかなぐり捨てて怪物となり、あくまで打倒ダイを貫こうとします。
「力こそ正義」を信じ続けていた彼にとって、地上破滅も魔界に太陽をもたらすのも、まず目の前の戦いに勝ってからの話なのです。
「お前に勝つことが、今の余のすべてなのだぁーっ! 砕けて散れェーッ、ダイーッ!!!!」
理性も、目的も、すべてかなぐり捨てて、ただただ勝利のみを目指す。「力こそが正義」を信じるが故に。
自らが『正義』であるがために!
この意志のぶれなさ、自らの生き方に準ずる強さ。その業の深さ。
人類側からすれば、どう見ても悪でしか無かったでしょう。なので当然のように物語の終わりに彼は敗北し、憧れた太陽を臨んだまま石となって潰えました。
しかし、彼が作中でずっと示してきた『格』『信念』『生き様』は、悪でありながら読者に深い感銘を与え続けて来た事でしょう。
だからこそ彼には大魔王という称号が、そして『ラスボス』という地位が相応しかったと確信を持って言えます。
作品そのものすら昇華させた偉大なるラスボス、大魔王バーン様に盛大な拍手を。
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