第11話
ばっと声の方である2回席に視線を向けると、そこには漆黒の翼を持つ美丈夫が佇んでいた。漆黒に黄金の刺繍が輝くジャケットを美しく着込んだ男は、切長のガーネットのような瞳を細め、しゃらしゃらと右耳に揺れる房飾りとパーティー用なのかしっかりとセットされた漆黒の髪を風に揺らしながら、男が会場に舞い降りる。
「ま、魔王………!!」
ディートリヒが怯えたような声を出した瞬間、魔王ディアブロ、ヴァイオレットの前世の
前世で唯一プレイした乙女ゲームの隠しキャラであり、ヴァイオレットの永久不滅の推しキャラである魔王ディアブロ。
悲しき過去と悪逆無道な性格ゆえに嫌煙されがちなキャラだが、ヴァイオレットは彼が大好きだった。その美しきビジュアルが、声が、そして、愛したものだけに向ける優しい表情と仕草が、たまらなく大好きだった。
(というか、この世界って『君愛』の世界だったのね)
『君だけを愛するこの世界で』通称『君愛』は人気イラストレーターが手がけた作品であり、声優陣もものすごく豪華な作品だった。
作り込まれた世界観に、キャラクターに、人々の心は一瞬で虜になってしまったものだ。もちろん前世のヴァイオレットもそのうちの1人である。
惚けていたヴァイオレットに向けて、今しがた天より舞い降りたディアブロがヴァイオレットに向けて跪く。
そして、漆黒の手袋に包まれた長い指をまるで許しを乞うかのようにヴァイオレットに伸ばす。
「ガーナイト王国筆頭公爵家エレイン家が長女ヴァイオレットに乞う。———我が妻となれ」
美しきテノールボイス。
麗しき顔立ち。
愛おしき出で立ち。
一瞬で頷いてしまいたい。
けれど、前世も今世も何度も何度も散々な目に遭ってきているヴァイオレットは知っている。この世の不条理を。
だから、頬と耳を真っ赤に染めて震える右手が彼の手に伸ばされるのを必死に左手で押さえつけながら、作り上げられた美しい笑みを浮かべる。表情と仕草と顔色がチグハグなのは、この際考えないようにしなければならない。
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