第12話

「美味しいご飯三食とお菓子、美しいドレスに装飾品、あとはふかふかのベッドとお昼寝のお時間も欲しいですわ」

「そんなことで良いのならば、今すぐにでも叶えよう」


 真摯な声で頷かれ、まっすぐな瞳に射抜かれる。


「最後にっ、」


 ビシッと彼に向けて指差したヴァイオレットは、今にも泣き出しそうな震える声で、言葉を紡ぐ。


「………わたくしを愛し、そして今すぐにわたくしと共に逃亡してくださいまし」

「あぁ、分かった」


 ふわっとした浮遊感と共に、ヴァイオレットの身体は彼によって姫抱きにされた。


「!?」

「さぁ、我が妻ヴァイオレット。ハネムーンに向かおうではないか」

「いやああああぁぁぁぁ!!レットぢゃんおいでがにゃいじぇえええぇぇぇぇ!!」

「推しの声が聞こえないから。ディー君は黙って」


 姫抱きにドキドキしながらも、オタク根性丸出しのヴァイオレットはきらきらとした視線をディアブロに向け、ディートリヒに冷たい声を浴びせた。


「そもそも、わたくしに嫉妬させようとは20世紀分ぐらい早いですわ。わたくし、おこちゃまは眼中にありませんの。それではご機嫌よう、ディー君。マリーナさま、日本という国をご存知のようでしたら、今度わたくし宛てにお手紙を飛ばしてくださいませ。あと、殿下のことをしっかりと守ってくださいな」


 ばいばいと手を振った瞬間、ヴァイオレットの視界は真っ白に染まり、くちびるに淡く優しい感覚が触れた。幸せな感触は永遠の時を刻むかのように長く優しく続く。


(100回のループの末にあるのが推しとの逃避行ならば、100回もの人生をかけて死に続けた甲斐があったものだわ)


 捻くれ溺愛王子から逃げ出したヴァイオレットは、ハネムーンへと向かう道中、自分を抱きしめ甘やかしてくれる推しに頬を緩めた。

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