第10話

「いい加減にしな!あたしの前で泣くんじゃないよ。めめっちい。惚れた女に妬いて欲しくてあたしと恋人のふりをするとかほんっと情けない。あたしはもう降りるよ。こんなのと恋人役なんて付き合ってらんないわ」

「え………、」

「姫さんもさっさとこんな男捨てて、いいのをさっさと捕まえるべきね。家柄とかお国のためにとか馬鹿馬鹿しい。古き良きなんてもんはさっさと捨てな。女の幸せは男に決められるもんじゃない。っつっても、“中世ヨーロッパ系の人間”に言っても無駄か………」

「は………、」


 キャパオーバーを起こしていた頭に更なる重量が押し込められて、ヴァイオレットは目をぱちぱちさせた。


「レットちゃぁん!すてちゃいやあああぁぁぁぁ!!」


 スンスンがビャーに変わって、うああぁぁ!になったディートリヒがマリーナに首根っこを押さえつけられている。


(えっとこれは………、)

「………………そもそもわたくし、ディー君のこと大事には思っているけれど、嫁ぎたくはないのよね………、」


 阿鼻叫喚の景色に眩暈がしてくる。


「———ならば俺が娶ろう」


 グラグラと身体が揺れ始めた頃、ヴァイオレットの耳に艶やかで美しいテノールボイスが響いた。低すぎず高すぎない好みの声を聞き、ヴァイオレットの背中にゾクゾクしたものが這い上がった。


(この声はまさか………!!)

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