第7話

(でもその前に、)


 怪訝な顔をしている側近たちにふわっと微笑みかけ、一瞬呆けた隙にヴァイオレットはマリーナがディートリヒの腕に抱きついていることも気にせず、彼の身体に大胆に抱きついた。


「!?」


 彼が、周囲が驚いた気配がする。

 5秒間だけ彼に抱きついていたヴァイオレットは、あっという間に彼から離れ、飛びかかってこようとする側近たちに両手をあげ、敵意がないことを示す。


「わたくしだって最後に言いたいことがありますわ。そのくらいの猶予ぐらいは持たせてくださいまし」


 ふわっと微笑み、ヴァイオレットは前世の自分を取り戻したことにより、おせっかいな性格に目覚めたことに気がついた。前世お節介が過ぎた為に過労死したのにも関わらず、またおせっかいを焼いてしまうとは本当にめげない性格すぎる。


「ディートリヒ殿下、いいえ、ディー君。わたくしの可愛い可愛い弟分。朝起きたらまずハーブを浮かべたぬるま湯でお顔を洗ってくださいね」

「は、」

「お着替えは侍従の言うことをしっかり聞いて、しっかりとその日着るのに相応しいお洋服を着るのですよ?」

「は、え、あ、ちょっ、」

「朝ごはんのスコーンはクリームたっぷりの物がお好みとは存じています。ですが、お体に悪いのでちゃんとお野菜とお肉と、後はいくら嫌いだと言っても、ヨーグルトも食べてくださいね。好き嫌いは許しませんよ」

「僕だってもう16歳だ!ヨーグルトぐらい食べられる!!」

「あらそれは良かったわ。後はそうね〜、歯磨きは奥歯までちゃんとするのですよ?」

「僕を何歳だと思ってるんだ!?」


 発狂して泣き出しそうな表情で叫んだディートリヒに、ヴァイオレットは慈愛の笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る