第6話
こうして、ヴァイオレットにとって100回目の人生が幕を開け、先程無事に?婚約破棄がつつがなく行われた。だからこそ、ヴァイオレットは穏やかに微笑んで優雅にカーテシをした。桜色のぷっくりとしたくちびるが弧を描き、最後の一音を除き、鈴を転がすような澄んだ声が響く。
「承知いたしましたわッ!?」
今回こそは全てを諦めて大人しく成仏しようと決意した瞬間、ヴァイオレットの頭には激しい頭痛が走った。
頭の中に流れるのはひたすらに働いて働いて、そして報われなかった日々。
(人生100回目の人生にして前世を思い出すって………、何だか変な感じだわ。わたくしなのにわたくしじゃない記憶。不思議なものね。でも、どこか懐かしくてしっくりくる)
ブラック企業で後輩を守り抜くために、社畜として働き詰めて死んだ自分は、どうやら今世でもおせっかいな人間らしい。
引っ詰めすぎて頭痛のする頭から解放されるために、ヴァイオレットは髪を止めていたバレッタを取り、緩やかにウェーブする藤色の髪を優雅にとかした。
アクアマリンの瞳を優しく緩め、カツカツと純白のハイヒールの踵を鳴らし、ディートリヒに近づく。
16歳のヴァイオレットはたった3歳の時、ディートリヒと婚約を結んだ。
生まれた日からずっと一緒にいた大事な幼馴染。たとえ彼に嫌われているのだとしても、彼に対しての沢山の不満や恨みつらみを抱えているとしても、ヴァイオレットは彼のことを弟のように大事に思っている。
(まあそもそも、わたくしが恨むべき相手は彼を傀儡として操り、わたくしを殺そうと足掻いている人間なのだけれどね)
彼は基本お馬鹿さんで優柔不断で、怖がりだ。
だからこそ、ヴァイオレットは彼を傀儡にせんとしている人間を今この場で見つけ、彼がヴァイオレットなしで幸せに生きられる環境を作っておかなければならない。タイムリミットは1時間以内。
ヴァイオレットの奮闘が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます