幸せ者

ヤミーバッファロー

1


立花勝子。どんなことにも打ち勝って欲しいという強い気持ちから勝子と名づけられた。高校一年生で、学校では写真部に所属している。成績はいつも後ろから数えて数番目だ。そんな私だが友達が複数人いる。移動教室のときはいつもその友達たちと仲良くはなしている。父親は祖父の経営する大手企業で務めておりそこそこの地位にいるらしい。母親は近所の企業で事務として平日は働いている。両親が一生懸命働いてくれているおかげもあってだろうか。彼女は「お金に困ったことがない」。奨学金制度について考えたことは1度もないようだ。


「この女の子のどこがあれなんだ。」

相棒のマイケルは書類に目を通すと大きなため息をついた。俺の口からも自然と深い息がこぼれ落ちた。

「おいナカシオ。この女の子の依頼は断ってくれ。こんなに幸せそうな女の子が「しあわせになる魔法」を購入したいなんていうのはおかしいだろう。」

「マイケル。そういってもな、このサイトにたどり着くことができるのはごくわずかのヒトだけなんだよ。」


俺らは「しあわせになる魔法」を売っているヒトだ。依頼があると俺がその依頼主について調べ、マイケルの了承を得られると依頼主に魔法をかける。この魔法をかけられた人間は、幸せの気持ちを常に感じることができる。また「しあわせになる魔法」は幸せなることを強く望んでいる者のみが訪れることができる。


「おいまてよ。ナカシオ。これを見てくれよ。」

マイケルが手持ちのタブレットを俺に向けた。タブレットには依頼主の立花勝子が映っていた。暗い部屋の中、彼女は布団にくるまっていた。

「またひとりだよ。パパもママも帰りは遅いし。」

暗くよく見えないが呟く言葉の1つ1つが震えていた。この子は幸せ者にみえて実は幸せ者じゃない。直感で感じた。

「ナカシオ。この子はもしかしたら幸せでいることに疲れたんじゃないか。」

そういうことなのか?幸せでいること、つまり幸せを演じることに限界を感じたのならば俺らに依頼してきた意味も分かる。でも両親の帰りが早くなったとして、この子は本当に幸せなのだろうか。そもそも幸せを常に感じていることはこの子を救う方法になるのだろうか。

「マイケル。この立花勝子を救う方法は無いとおもう。」

マイケルは悲しげな瞳を俺に向けた。


立花勝子の依頼を断ってから数か月たった時。

マイケルから、立花勝子は不登校になった後誰もいない深夜の自宅で自殺したことを知った。


立花勝子は友達から仲間外れにされるのが怖く自分の意見を押し殺していたこと、幼いころから両親は毎日帰りが遅いため孤独を常々感じていたこと、孤独にのまれ勉強どころではなくなり自分を追い詰めていたことを知る由もない。


幸せ者とは何か。


しあわせとは何か。


他人が判断していいものだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幸せ者 ヤミーバッファロー @fyame_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る