第35話 女子トーク

闘いを終えたオレと椿は、先輩を隠れさせた建物へと向かって歩いていた。


「雪代先輩に説明して納得してくれっかなあ」


「頑張って理解してもらうのじゃぞ神威よ」


「お前、説明する気無いよね?ねぇ?」


「あっ」


「?」


オレ達が前を見ると、雪代先輩がこちらに向かって歩み寄って来ていた。


「雪代先輩」


「終わった…のよね?」


「はい」


雪代先輩は「そう」と一言頷くと、目に涙を浮かべ始めた。


「え!?なに!?ナニゴト!?」


「いきなり泣き出しよったぞ」


そして、傷を負うオレにいきなり抱きついてきた。


「は!?」


「何をしとるんじゃ!」


「オレは何もしてねぇよ!?」


「バカ…傷だらけになったあなたを見て、心配しない訳ないじゃない」


そう言われて、オレは自分の身体をよくよく見ると、切り傷やら刺し傷やらでボロボロになっていた事を思い出した。

そういや、闘いの最中アドレナリン出まくってたせいか、自分が傷だらけなのすっかり忘れてた。


先輩は、オレを離してゆっくりとこちらを見つめる。


「とにかく話しは聞かせてもらうわ、それよりも今日は家で治療させてあげるから2人とも私の家に泊まって行きなさい。ちょうど明日は学校もお休みでしょ」


家で治療って、包帯やそこらのもんだけで治る傷じゃないんだけども。


「治療なら知り合いの医者がいるんで別に「逃がさないわよ」行かせていただきます」


圧がすげぇんだけども。下手なことしたら、逃げたと思われてまた話す話さないの追いかけっこになりそうな気がした。


「とは言っても、応急処置じゃ足りませんよ雪代先輩」


椿の言葉に、雪代先輩は平然と答えを返す。


「大丈夫よ。家に専属の医者がいるから」


専属の医者って何?聞いたことない日本語が出てきたんですけど。


「あと、口調も崩していいわよ。さっきの喋り方があなたの素なんでしょ」


そーいや、闘いの最中は素の言葉で話してたもんな椿は、そりゃ分かるか。


「はぁ、分かった。その代わり、妾達の事情を知ってる者の前だけでじゃぞ」


「えぇ、構わないわ、少しだけ待ってもらえるかしら?今車を呼ぶから」


雪代先輩は、スマホで誰かを呼び出していた。

タクシーでも拾うのかな?


10分後、オレ達の前に1台の車が到着したんだけども


「生リムジン、初めて見た」


「ダックスフンドのような車じゃのう」


犬で例えるんじゃない犬で


「さ、乗って」


オレ達は車に乗りこんで、部屋かよとでも思えるような車内に開いた口が塞がらなかった。

え?車だよな?オレの家の1部屋より広いんじゃね?

戸惑いながらも席に座るオレの横に、雪代先輩が座ってきた。


「コーヒーはいるかしら?紅茶もあるわよ」


「あ、じゃあ紅茶で」


「ちょっと待たぬか!何故そなたが神威の隣に座るのじゃ!」


「彼女だから」


「その件についても聞かせてもらうからの!神威!」


矛先がオレに変わりやがった。

車に揺られギャーギャーと騒ぐ2人を他所に、オレはただただ黙って紅茶を飲んでいるだけだった。

30分ほど経った頃、車が止まり、到着したのかとオレ達が窓の外を見ると、とんでもない豪邸が目の前に広がっていた。


「デッカ……」


「凄まじいのぉ」


「こっちよ、神威君はまず医者に見てもらいましょ、椿さんは使いの人に部屋に連れて行ってもらえるかしら」


「あ、はい」


「妾も「大丈夫だから信用してちょうだい」」


オレは先輩に誘導されて、医務室へと連れていかれた。


「先生、いるかしら?」


「これはこれは、お帰りなさいませ佳奈様」


もうツッコまねぇぞ、絶対にツッコまねぇ


「彼がかなりの重症なの、治療をお願いできるかしら」


オレは先輩の後ろからそっと顔を覗かせると、医者の先生が強ばった顔でオレを見る。


「これは、分かりました。佳奈様はお部屋へお戻りください。必ず治療してみせますので」


「えぇ、お願いするわね」


先輩はそう言って医務室を出ていく。

初対面の先生と2人きりは、ちょっと気まずいんですけど




椿視点


泥棒猫の使用人に連れてこられた部屋は、あまりに広く、1人でおるにはとても落ち着かぬ空間じゃった。


「待たせたわね、椿さん」


そう言って部屋に入ってきた泥棒猫、いや、雪代先輩はゆっくりとソファに腰掛ける。


「今お茶を入れてもらうわ。とりあえず座ったら?」


「う…うむ」


たどたどしく先輩の向かいの椅子に座る妾を、先輩はクスクスと笑いながら見ていた。


「別に取って食べたりなんかしないわよ。安心してちょうだい」


いや、別に食われると思った訳ではないんじゃが


「今回の出来事含め、事情は神威君とあなたの2人から聞きたいの、だから今は別の話しをしましょう」


妾は、ちょうど目の前に置かれた紅茶をゆっくりとすする。


「私、本気で神威君に惚れちゃったみたいなの、あなたもよね?」


「ブーーーー!!!」


あまりの衝撃発言に、紅茶を吹き出してしもうたではないか、いきなり何を言い出すんじゃこやつは


「フフッ、初々しい反応ね。こーゆー話しはお嫌い?」


「い、いや嫌いとか好きとかではなく…そもそもこーゆー話しをした事がなく…」


って何を言うとるのじゃ妾は!


「でも、好きなのよね」


「くうっ」


こやつ、答えずらい質問をサラリと


「好きなのよね?」


「あーそうじゃ!好きじゃわ!何が悪いか!」


「悪くないわ、恋愛は自由だもの、重要なのはその後の奪い合いでしょ?」


雪代先輩は、ゆっくりと紅茶を啜り息を一息ついた。


「因みに、もう告白はしたの?」


「…うむ、まだ返事は保留にしてもろうとるが」


「あら、そうなの?キスまでしてるのに?」


「あれは必要な事じゃからじゃ!」


「なら、仮の恋人の分私が1歩リードね」


こやつ、ことある事に恋人関係をチラつかせよって。


「先に私達の事情を話しておくわね。神威君は当然知ってるわけだし」


ようやく、神威がいきなり雪代先輩と交際することになったのか聞くことができるわ。


「と言っても、別にそんなに複雑な事情がある訳でもないの。

ただストーカーに付きまとわれているから問題が解決するまで恋人のフリをしていて欲しいって言っただけ、ストーカーはひとりじゃないって意味も付け加えてね」


「それを妾にも隠しておった理由はなんじゃ?」


「どこから恋人のフリって情報が漏れるか分からないから、他言は無用って言っただけよ」


なるほど、雪代先輩が困っていると言った以上、恋人のフリなどアッサリと引き受けそうじゃのう、あやつ根は優しいから


「でも、最初のストーカーを倒したあの日に、あなた達の闘ってる姿を見て、本気で神威君に惚れてしまったのよ。それには今の仮の恋人関係がとても都合がよくて、彼の優しさに漬け込んでとことん私に釘付けにしてしまおうって思ったってわけ」


「ストーカー対策と言うなら、神威以外にもおったじゃろう。

そなたの顔ならよってくる男は引く手数多じゃろうに」


「彼にも言われたけど、誰でもいい訳じゃないの。仮に私に気がある誰かに頼んでストーカーを撃退したとしても、その相手からの見返りを求められたらそれこそトカゲの尻尾切りだわ。キリがないのよ」


雪代先輩は困ったように肩を竦めて説明しよる。

だから、雪代先輩に気のなさそうな神威を選んだとな


「理解して貰えた?」


「うむ、理解はしたが、何とも腑に落ちぬのう」


「あら?そうかしら?人を好きになるのに道理なんてないんじゃない?あなただってそうでしょ?」


「確かにそうじゃが」


「私はね、恋敵とはいえ、あなたの事も結構気に入ってるのよ」


「はい?」


雪代先輩は身を乗り出して、妾に顔を近ずける。


「あなた、神威君のどこを気に入ったの?好きな食べ物とか知ってる?お休みの日は何をしてるのかしら?お風呂は頭から洗う派?身体から?」


「え?え?」


「フフッ、時間はたっぷりあるわよ、根掘り葉掘り聞かせてもらうわ」


気づけば妾の顔は真っ赤に染まっていた。

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刀輝擬人伝『刃と夢の誓い 〜オレとあの娘の日常戦記〜』 タイキック @tai1264

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