第34話 幸宏と黒羽
「『桜花流 花霞』」
この勝負、長引かせるだけオレ達が不利だと考えたオレは、移動中は常に花霞を使い、一瞬の隙も作らない覚悟でやつに挑む。
オレは、やつの後ろに回り込み、即座に首を跳ねようと後ろから刀を大きく振るう。
ガキィン!
だが、やっぱりあと少しって所で影に防がれてしまった。
アイツの視界の外からの攻撃だったんだけどな、やっぱあいつの刀が指示出してんのかな?
オレはやつから離れて距離をとり、オレと男の睨みあいが続いた。
「お兄さん強いっすね!」
は?いきなりアイツの刀が、人に戻って話しかけて来たんだが。
「ウチ、強い人は記憶に残すって決めてんっすよ!お兄さん達お名前は?」
「…八九師神威、あと相棒の椿」
「おい、わざわざ敵と話すことないだろ」
「えー?だって勿体ないじゃないっすか。せっかく強くて楽しい勝負ができるんっすよ?覚えておかなきゃ失礼ってもんっす!あ、因みにウチは陰香で、持ち主は弥彦っす!すぐに倒されると思うんで覚えておくかはお任せするっす!」
こいつ、オレ達が負ける前提で話してきやがる。
腹立つこいつ
あからさまな挑発にイラつくオレだが、そんなオレに椿は喝をいれてくれる。
『挑発に乗るでないぞ神威、怒りに身を任せたら奴らの思うつぼじゃ、あーゆー輩はこちらを怒らせてからの戦法にめっぽう強いのじゃ』
「要はキレるなってことね」
『理解してくれたようで何よりじゃ』
オレは椿を低く構え、いつでも攻撃を仕掛けられる体制に入る。
「お?まったく弥彦もあなたも気が早いっすねぇ、最初で最後になるかもしれないんっすから、もう少しお喋りに付き合ってくれてもいいんじゃないっすかぁ?」
「どうやら、喋るのが好きなのは陰香だけみたいだな」
「つれないっすねぇ、はぁ仕方ない」
あの陰香って娘は、弥彦にキスをしてまた刀へと変身する。
「すまなかったな、オレの相棒はお喋りが好きなんだよ。今もオレに語りかけてる」
「気にすんな、刀だって今は生きてんだ。喋るのが好きな奴だっているだろうしな」
オレと弥彦は、お互いに刀を構え、静かな睨み合いが続く。
「『桜花流』」
「
オレと弥彦の攻撃のタイミングは、ほぼ同時だった。
「『花霞!』」
「『
オレが高速で前進すると同時に、弥彦は自身の影を媒体にして、ライオンの影を出現させた。
「ッシィッ!」
オレは逆袈裟で、ライオンの影に攻撃を仕掛ける。
ライオンは大きく飛び上がり、オレに噛み付こうとしていた。
こうなると、勝負を決するのは攻撃の速さだ。
だが、攻撃の速さなら負けねぇ
ライオンが襲いかかるよりも早く、オレの刀がライオンに届き、ライオンを切り伏せる。
ライオンは地面へと溶けるように消え、その瞬間、オレの肩に強烈な痛みが走った。
「ぐわぁぁっ!!!」
「勘違いすんじゃねぇぞ、敵本体はオレだ」
弥彦がオレの肩を突き刺し、空いた片手でオレの首を絞めあげる。
「かはっ……」
「終わりだ」
まだ…終わってたまるか
オレは弥彦の絞めあげる腕に絡みつき、そのまま地面に叩き付けた。
「がっ!」
締め上げていた手が緩み、呼吸が出来るようになったオレは、すぐさま空中へ飛び上がり椿を下に向ける。
「『桜花流 鬼灯』」
弥彦は地面を転がって鬼灯を交わすと、また無数の腕でオレ達を捕まえようと伸ばしてくる。
「『桜花流 乱香』」
オレは縦横無尽に刀を振り回しながら、弥彦に突っ込んでいく。
その間に襲いかかる腕は、全て乱香の技で切り落としてやった。
「チィッ」
オレが距離を詰めると、弥彦は大きく刀を振り上げる。
「『桜花流 茎凪!』」
振り下ろされる陰香と、椿をぶつけ合い、茎凪で奴を爆風で吹き飛ばす。
「『桜花流 薇』」
吹き飛ぶ弥彦を追いかけながら、オレは腰を大きく捻り、刀を振るった。
だが、また陰香の作った影でオレの刀が防がれてしまう。
「くそっ!」
「くそは、こっちのセリフだ!!」
弥彦が地面に手をつけると、地面一体が黒い影に覆われる。
「は!?ナニソレ!?お前悪魔の実の能力者の間違いなんじゃねぇの!?テ〇ーチかよ!」
「『
辺り一面に広がった影から、炎のような影が現れる。
「影だから熱くねぇのに、なんで炎なんか」
『神威!見よ!』
オレが前を見ると、弥彦の身体が炎の影に隠れて、姿が揺らめいて見えていた。
「なるほど、炎の影を出したのはオレ達に動きを悟らせないようにする為か」
『の、ようじゃな』
弥彦が炎の中に姿を消し、オレの視界から消えてしまった。
「!」
オレの気が一瞬逸れたところで、背中から斬られた感じがした。
「ぐわぁっ!」
だが、後ろを振り向いても誰もいない。
くそっ、炎のせいでどこにいるか分からねぇ
その間にも、肩、胸、足と次々に刀傷が増えていく。
くそっ!どうすれば!
『刀気じゃ!神威!』
そうか!あの技があった。
オレは全身に刀気を集中させ、一気に破裂させた。
「『桜花流 桜吹雪』」
破裂した刀気の破片と爆風で、辺り一面の炎が消し飛び、弥彦の姿が現れる。
「な!」
「そこ!」
オレは椿に刀気を集中させて、刀気の塊を出現させ握りとる。
やっぱ決め技はこれだろ!
「『桜花流 睡蓮』」
ドヒュン!
「ぐあぁっ!」
睡蓮が弥彦を貫き、オレは残った陰香をへし折りに向かう。
「う……うわぁぁ!」
「折れろぉぉ!」
ガキィィン!!
「!」
陰香に刀を振り下ろした所を、知らない男が陰香を守るようにオレの攻撃を防いでいた。
誰だ?
「八九師神威、思ったより強いな」
「誰だ?」
「阿形幸宏、近いうちにお前を殺す名前だ」
物騒だな、なんだってんだよ一体。
幸宏はゆっくりと陰香に向かって行き、陰香をジッと見つめる。
「な…なんすか」
「お前はオレが貰う」
「んムグッ」
幸宏が陰香とキスをして、陰香と契りを交わしやがった。
ここに来て敵を増やしちまったな。
『神威、斬るかの?』
オレは、いつでも戦闘に入れるように警戒するが
「止めておけ、今のお前じゃ満足に戦えんだろう。今回は貴様の力を見に来たのと、ついでに新たな刀を奪いに来ただけだったからな。見逃してやるよ」
「見逃して頂くギリはねぇぞ?この場で斬り伏せてやるよ」
「やめた方がいいわよ」
今度は誰だよ!
幸宏の後ろから、和服姿で黒い髪の椿よりも少しばかり大人びた女性が現れる。
「彼ね、すごく強いの、普段のあなたですら勝てないのに、満身創痍のあなたじゃ絶対に勝てないわよ」
「あんた誰だよ?そんな事やってみねぇとわかんねぇだろ?」
女はクスリと笑い、視線がオレから下へと向かう。
「久しぶりね椿、覚えてるかしら?」
こいつ、椿を知ってるのか?
椿も元の人型に戻り、女をジッと見つめていた。
「随分と姿が変わったのう、一瞬誰だか分からんだぞ…黒羽よ」
黒羽?どっかで聞いたことあるような。
「あなたの姿を少しばかり真似てみたのよ、どう?似合うかしら」
「馬子にも衣装じゃな」
「あら、随分と失礼しちゃうわね」
黒羽は幸宏の肩に手を置いて、椿に話しを続ける。
「近い内に、また会いましょう?次は真剣として」
「いずれは相見えるもの同士じゃ、決着はつけてやるぞ」
「フフッ、じゃーねー」
黒羽は、黒い羽を背中から出し、幸宏を隠すように包むと、一瞬でその場から消えてしまった。
「椿、知ってるのか?」
「五大刀輝の1人、そして里見先輩の探しておった人物じゃよ」
!そうか!だから聞いたことある名前だったんだ!
「それよりも、泥棒猫の様子を見にゆくぞ」
「あ」
すっかり忘れてた。ここから長い説明が待ってるのかぁ
そう考えると気が重くなってくるオレであった。
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