第33話 正体

「どう?話す気になってくれたかしら」


まさか、昨日の1件を見られてたなんて、こりゃあなんて説明しようか。


「いや、あれはですね「敬語になってるわよ」今は別に良くないですかね!!?」


「まだ話してくれる気にならないのかしら?」


くっ!もう話すしかないのか!

オレは言いよどみながら、ゆっくりと口を開こうとする。


「実は」


「神威!まずいことになった」


雪代先輩に話す前に、椿がオレに声をかけてくる。

なに!?今腹括って話そうとしてたって時に!


「刀の気配がするのじゃ!」


「は!?」


こんなタイミングで!?

最近椿は、幾度となく闘っているからか、刀の気配を感じるようになってきたらしい。

いわゆる刀センサーだ。ちょっと欲しい。


「ねぇ、刀の気配って?」


「すんません先輩!この話しはまた後で!」


オレ達が警戒していると、雪城先輩の後ろにフードを被った2人の人影が現れた。


「あれか!」


「うむ!」


「お前ら、刀と持ち主だな?」


「っすね!やっと見つけたっす!」


2人はフードを取ると、こちらを見て確信したような笑みをこぼす。


1人は幼顔だが若干小柄のボーイッシュという言葉が似合いそうなオレンジ髪のツンツン頭の女の子、

もう1人は、スキンヘッドに顔に蛇のような刺青を入れたかなりワイルドな男の2人だ。


2人はキスをすると、女の子が刀に変身して、オレ達に迫ってくる。


「2人とも!伏せろ!」


オレは椿と雪代先輩の頭を抑えて地面につけ。自身の体制も低くしてやつの剣をかわした。


「あっぶねぇ」


ブォン!


「!」


オレが上を見上げると、男が刀を振り下ろそうとしていた。


「まずっ」


「神威!」


椿が強引にキスをして刀に変わり、オレの身体を動かして男の攻撃を防いでくれた。


「え?え?」


オレの下で混乱している雪代先輩を、先に何とかしないと、このままじゃこっちが先にやられちまう。


「雪城先輩!できるだけこの場から離れてください!」


「は…はい」


雪代先輩はゆっくりと起き上がり、建物の物陰に向かって走り出す。


「逃がさねぇ!陰香いんか!」


男が叫ぶと、男の影が形を変えて浮き上がる。


「はい!?」


『こやつの能力!影を操るのか!!』


「くっ!椿!」


オレは男の刀を握る手を抑え、鍔迫り合いしていた刀を離す。

新しく覚えた桜花流、見せてやる。


オレは瞬間移動の速さで、男の影よりも早く雪代先輩の下へ移動して、攻撃を防ぐ。


「へぇ」


「『桜花流 花霞はながすみ』」


オレは全身から刀気を放出した。

これで移動した時にオレの身体だけが霞のように、ゆっくりと残像を残しながら消えてるように見えるはずだ。


「消えっ…」


「だぁぁっ!!」


オレは、男の後ろから刀を振り下ろす。


ガキィン!


けど、オレの攻撃は男の刀によって防がれた。


『うつけ者!視界から消えてからの攻撃に声を荒らげるやつがあるか!』


怒られちまったよ。


「お前のせいで椿に怒られたじゃねぇか!」


「知るか!」


男は影を地面全体に広げて、その影から無数の黒い手が生え、オレ達に襲いかかってくる。


『神威!桜吹雪じゃ!』


「あいよ!」


「『桜花流 桜吹雪』」


オレは全身に刀気を纏い破裂させ、破裂させた刀気の破片を空中に舞い散らばせ、破片が防御壁としての役割りとなり、襲いかかって来る無数の手から身を守る。


「チッ」


あんにゃろう、舌打ちしやがった。


「なら、これはどうだ」


男の影からまた1本腕が生え、またオレ達に襲いかかってくるのかと身構える。

だが、行き先はオレ達ではなく


「佳奈!」


「え?」


オレは花霞の力で瞬時に動き出すが、防御には間に合わない。


ドン!


「きゃっ!」


オレは雪代先輩を突き飛ばし、腕からの攻撃を庇うが、その代わりにオレが黒い腕に殴り飛ばされてしまう。


「かはっ!」


「神威君!」


『神威!』


オレは、空中で体制を立て直し、地面に足をつけて、即座に地面を蹴って花霞で前に出る。


「『桜花流 花霞 芯華!』」


最高速度での刺突攻撃、これなら防ぎきれねぇだろ。

だが、男の前には巨大な影の壁が立ち塞がり、オレの刺突攻撃を防ぎきっていた。


「くそっ」


とにかく今は、雪代先輩を何とか逃がさないとな。


「雪代先輩!今のうちに逃げてください!ここは危険ですから!」


「だ…ダメなの」


ダメって、何言ってんだあの人は!


「腰が抜けちゃって」


立てねぇのか、それはまずい!


「立てねぇのか、なら都合がいい」


!ヤバイ、こいつ何かする気だ。


オレは急いで、地面にヘタる先輩の下へと駆けつける。

それと同時に男はまた影を伸ばして先輩へと向けて飛ばしてきた。


「先輩!失礼します!」


「へ?」


オレは先輩を抱えあげ、花霞を利用し走って逃げる。


「きゃぁぁぁぁ!!!」


物凄い悲鳴をあげる先輩を抱えながら、襲いかかってくる無数の腕をかわしながら逃げ続ける。


『ここからどうする気じゃ!神威!』


「どーするもこーするも、先輩を安全なところに逃がすのが優先っしょ!」


「え!?まさか、八九師さんと話してるの!?神威君!」


「えぇ、まぁ、ね!」


このままじゃキリがねぇな、

そう思ったオレは、逃げる方向を変え、奴の周りを縦横無尽に駆け回る。


「くっ!どこから攻撃が」


「目の前だ……よ!」


オレは先輩を抱えたまま、男の顔に蹴りをお見舞いして、視界を塞いでやった。

この隙に

やつがよろけている隙に、オレはその場から離れて先輩を安全な建物の陰へと運んだ。


「ここならアイツの攻撃も届かないし、安全と思います。いいですか?決着が着くまでここから出ちゃダメですからね」


建物の隙間から椿に人の姿に戻って見張ってもらい、オレは先輩に忠告を施す。


「わかったわ、その代わり、これが終わったらあなたの正体を必ず教えてね」


「えぇ、必ず」


もし生きていたら…ね。


オレは立ち上がり、椿と共に建物の隙間をのぞき込む。


「どうだ?あの男が気づいた様子はあったか?」


「今の所はなさそうじゃが、視界に入る距離じゃ。いつ気が付かれてもおかしくないぞ」


「そうか」


オレはどのタイミングでやつに攻撃を仕掛けるか、ずっと目で追いかけながら考えていた。


「神威」


「ん?」


オレに声を掛ける椿の顔を見ると、真剣な顔でオレを見つめていた。


「今回の闘いは、恐らく花霞を多様しながらの戦闘になるじゃろう。身体的にかなりキツいが、ゆけるか?」


今更何を言ってんだかこいつは、そんなの答えはもう決まっている。


「行けるか行けないかじゃないだろ?やるかやらないかだ」


「フッ、そうじゃな」


椿がオレの唇に、自分の唇を重ね刀へと変わり、オレは椿を力強く握った。


「神威君」


「?」


振り返ると、雪代先輩がオレの後ろに立っていた。


「どうかしましたか?」


「少しだけ、いいかしら?」


?なんだろうか


チュッ


「!!?」


雪代先輩が、いきなりキスをしてきたせいか、オレは頭が真っ白になった。


『はぁぁぁぁぁぁぁ!!!?』


「これで椿さんと対等よ」


雪代先輩はゆっくりとオレから離れて、手をぎゅっと握ってきた。


「信じてるからね」


「は……はひ」


オレは頬をバシン!と叩き、気合いを入れ直した。


「よしっ!行くか!」


『神威よ、妾と口付けした時とは反応が違ったように見えるんじゃが』


だってお前の場合、刀になる為の儀式みたいになってんじゃん。

と思ったが、言うと怒られそうなのでシカトを決め込むことにした。


『コレ!反応せぬか!聞こえとるじゃろ!』


「気合い入れるぞ椿!」


『やっぱり聞こえとるではないか!』


さぁ第2ラウンドだ。激しく行こうか。

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