第32話 秘密を訊かせて
ガラガラ
今日も今日とて学校だと、憂鬱に思いながら教室のドアを開けたオレは朝から気だるげに机へと向かう。
「うぃーっ」
「神威!お前、雪代先輩に何した!?」
「お前!とうとう手を出したのか!?」
「は?」
机に着いた途端、佐竹と上原の2人がオレに迫って来た。
何言ってんの?昨日は家に送り届けてからそのまま椿と2人で家に帰っただけだぞ。
途中になんやかんやはあったが
「何もしてねぇよ。何言ってんの」
「だったらなんで、雪代先輩が恋する乙女の顔になってたんだよ!!」
「コノヤロー!お前ばっかりいい思いしやがって!」
は?乙女の顔?何言ってんだ?あの先輩だぞ。
「2人とも何の話しですか?」
すると、興味を持った椿がカバンをしまってからオレ達の会話に混ざってくる。
ヤバイ、話しをややこしくする人物が来やがった。
「椿ちゃん!ついさっき雪代先輩が来てな!」
「コイツを探しに来たんだよ!」
「へ…へぇー、そうなんですか」
佐竹と上原が、オレ達が来る前に何があったのかを、次々に説明していく。
「おい!お前ら!ちょっとま「せっかく来てくれたから、神威になんの用か聞いてみたんだよ。そしたらな」」
「そんなこと、恥ずかしくて言えないわ」
「って頬を赤らめながら言ったんだよ!」
「アレは絶対やってるな!オレが断言する!」
断言していらねぇよ。お前は男女交際の何を知ってんだよ。
「ちょっと詳しくきかせてもらおうか、神威」
「冤罪だ!!」
椿はオレの首根っこを掴んで、廊下に引きずって行った。
「で?どーゆー事じゃ?いつの間にそこまで行きよったそなたら」
そんな般若みたいなオーラ出さんでくだせぇ椿様。
「だから知らねぇんだって!お前も昨日一緒にいただろ?あの状況で何か出来ると思うか?」
「神威ならやりかねん」
「オレの信用既に地の底!!?」
「とにかく、あの泥棒猫と関わる時は妾も同行するぞ。よいな?神威」
「イ…イエッサー」
そう言って、椿は先に教室へと戻って行く。
「ふぅ、疲れたぁ」
「あら、2人で何の話しをしてたのかしら?」
後ろから聞こえた声に振り返ろうとしたら、目の前が何故か真っ暗になった。
「フフッ、だーれだ?」
「マッタク ココロアタリガ アリマセン」
「あら、あなたは恋人の声も思い出せないほど頭が重症なの?」
オレの目から手を離して、笑いながら目の前に現れた雪代先輩は、オレの手をぎゅっと握る。
「しれっとディスってませんでした?」
「気のせいよ」
「…そっすか」
「それより、敬語、戻ってるわよ」
敬語くらい別に良くね?とも思ったが、先輩が言うからにはタメでいくしかなかった。
「あー、ごめん」
「いいのよ。恋人でしょ?」
恋人ねぇ、よくよく考えたら昨日ストーカー退治したんだし、もう恋人の関係終わってもいいんじゃね?
「佳奈、その件なんだけど」
「何?」
「昨日、あの後ストーカーの男と思うやつ撃退したんだよ。だからもう恋人じゃなくて普通の先輩後輩の関係に戻ってもいいんじゃないかと」
そう言うと、雪代先輩はクスリと笑ってこちらを見てきた。
「あら?私、ストーカーが1人だけだなんて言ったかしら」
「はぇ?」
もしかして、他にもいんのストーカー!?
「私はまだ被害をうけつづけているわよ。だから、引き続き、仮の恋人関係よろしくね」
「うしょぉん…」
「あ、それから」
先輩がなにか言おうとした途端に、ホームルーム5分前のチャイムがなった。
「あなたの秘密、近いうちに訊かせてもらうわね」
「秘密?」
「それじゃ」
先輩はそのまま自分の教室へと戻って行くのを、オレは黙って見送った。
「秘密って、椿とのことか?」
だとしたらなんで先輩がその事を知って「コラァ!やくしぃ!ホームルーム始まるぞぉ!」
「うぃーっす」
その後も授業中ずぅっと、雪代先輩が言っていた秘密について考えていた。
「まさか!オレのスリーサイズを知りたいと「オレの授業で、なにを気色の悪い事を考えてるんだお前は」ヤマゴリちゃん」
「ヤマゴリ言うな」
オレが顔を上げると、目の前でヤマゴリが仁王立ちでオレを見下ろしていた。
「八九師、起きてるのは珍しいが、お前ちゃんと話しを聞いてたか?」
「ヤマゴリちゃんがオレに愛の告白をしたいと」
「したくねぇし、させんな気色悪い」
ヤマゴリは後ろの黒板をチョークで指して、オレに問いかける。
「んじゃああの問題解いてみろ八九師」
「歴史の授業でやる質問じゃねぇっす先生」
そして、オレの楽しみにしていた昼休み!
今日も椿の作った弁当を広げながら椿と一緒に飯を食っていたら、いつも通りに佐竹と上原がまたやってくる。
「神威君、私抜きでお昼ご飯を食べてるなんてせっかちさんね」
なんで雪代先輩もいんの?
「来よった泥棒猫」
聞こえる聞こえる、やめなさいな椿さん。
「あなたの為にお弁当作ってきたのよ。有難く頂戴しなさい」
椿の弁当を食うオレの目の前に、5段くらいの重箱をドンと置かれた。
重箱の迫力に一瞬言葉を失うオレ
いや、何人分だよこれ、どう考えてもキャパオーバーなんですけど。
「こんなに食えねぇっす」
「あら、酷いわね神威君、恋人の愛情を無下にするつもり?」
雪代先輩はオレの箸を奪い取り、弁当の中身の1つをオレの口に持ってくる。
「はい、あーん」
「イヤン オレ ハズカシイ」
「文句言わない」
ズボッ
シンプルに拒否するオレに、先輩は無理矢理おかずを突っ込んだ。
「美味い、けど、やっぱり多い」
「はい、もうひとつあーん」
「わ、私も!」
雪代先輩に対抗するように、椿も弁当箱からおかずを摘んでオレの口元へ持ってくる。
「神威!わら…私のも食べなさい!」
「まてまてまてまて、オレの口は1つしか無いってムグッ!」
左右から差し出されるおかずと格闘してると佐竹と上原が嫉妬の目を向けてくる。
「良かったじゃねぇか神威、三大姫のうちの2人からアーンしてもらえて」
「ちょうど椿親衛隊と佳奈様に踏まれ隊がいるぜ?呼ぶか?」
「黙ってろ!そして呼ぶな上原!呼ばなくても視線が痛いから!」
そのままオレは、雪代先輩の豪華な弁当と椿の弁当を交互に食うことになり、胃袋が破裂するかと思うハメになった。
放課後
疲れたオレが椿と共に昇降口へと行くと、そこで黄昏れるようにオレを待つ雪代先輩がいた。
「神威君、遅いわよ」
「いやぁ、そんなに待つ必要ある?」
「あるわよ彼女ですもの。それにストーカーはどこに潜んでるかも分からないのよ」
「ストーカー?」
オレの後ろで首を傾げる椿、そういえば、椿に聞かれてるけどいいのだろうか?
「いいわ、八九師さんになら」
お?気でも変わったのかな?
「とりあえず、歩きながら話しましょうか」
そう言って歩き出す先輩について行くように、オレ達は昇降口をあとにした。
「今回の件を八九師さんに話す代わりに、あなた達の秘密を訊かせてもらうわよ?」
「だから秘密ってなによ?オレ、佳奈に隠してる事なんて「ちょっと待て!なぜ今下の名前で呼んだのじゃ!」話しの腰を折るんじゃありません」
首を傾げるオレに、雪代先輩は1つ1つヒントを出してくる。
「昨日の帰り」
?
「大男」
!
「暴走」
まさか見てたの!?
オレと椿が驚愕していると、雪代先輩は淡々と説明してくれた。
「昨日あの後、見たのよ。ストーカーだった男が急に膨れ上がって神威くんと闘っているところを、さぁ、ここまで言ったのだから話してもらうわよ」
さて、一体どーしましょう。
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