第30話 両手に薔薇

「私の、彼氏になってくれない?」


は?何言ってんのこの人。

そんな事より、オレの後ろで椿がえげつないオーラを発してて恐怖しかないんですけど。


「Oh修羅場勃発」


しかも、衝撃の告白に教室中が騒ぎ立てていた。


「え!?あの雪代先輩が告白した!?」


「フった男の数は3桁を超えたって噂の雪代先輩だぞ!」


「しかも、よりにもよって神威にかよ!」


雪代先輩って、今さっき話してた三大姫とかいう、

そんな人がなんでオレに?


「ここじゃ、話しづらいわね。外に行きましょうか。八九師君」


「全力で逃げ出したい」


「何か言った?」


笑顔で首を傾げる雪代先輩だけど、何故だろう…この人からも負のオーラみたいなものが見える。逃げたらどーなるか分かるよね?って言われてるようで怖いんですけど。


「ナンデモアリマセン」


「そ、なら行きましょうか」


行きたくねぇー、でも行かなきゃなんかヤバそう。

オレはため息を吐いてゆっくりと立ち上がる。


「わ…妾も!」


「ごめんなさい。2人きりで話しをしたいの」


強引に付いてこようとした椿を、雪城先輩が一蹴し、そのままオレを連れて教室から出て行った。


そして、今現在オレは雪代先輩と共に体育館の裏に2人きりでいた。


「さっきはごめんなさいね、いきなりの事で混乱したでしょう」


「いえ、別に」


混乱どころか、教室が血の海になる寸前でしたよ。主にオレの血で


「話しを戻すんだけど、さっきの私の彼氏にって話し、仮の彼氏になって欲しいの」


「仮?」


「実は私、ストーカーの被害にあってて」


ほうほう、つまりその対策にオレに彼氏役になって欲しいと。


「でも、なんでオレに?他にも候補はいますよね?運動部の誰かとか」


こう言っては何だが、椿やういはを使ってないオレは一般の高校生だ。

別に特出した力がある訳でもなんでもない。


「部活をしてる人だとずっと一緒にいる訳に行かないじゃない。それに私に興味を示す人だとその後の見返りとか言ってきそうで信用出来ないの。だから、私に告白したことのなくて、興味もなさそうな人を探してたの」


んで、オレがヒットしたと


「まぁ、それは構わないんですけど、ほんとに信用できる人とかにこの事を話すのは…」


「ダメよ。どこで情報が漏れるか分からないんだから。下手に話しを広げる訳にはいかないの」


マジすか、できれば椿くらいには説明しておきたかった。


「そして今構わないって言ったわよね?」


「え?えぇ、まぁ」


「それじゃあ今日からあなたは私の彼氏よ」


やっべ、言質とられた。


「そうだ、まだちゃんと名乗ってなかったわね。私は雪代佳奈ゆきしろかなよ」


「八九師神威っす」


「そ、これからよろしくね♡神威君」


これは、なかなか面倒なことになりそうな予感

その後オレ達は教室に戻り何事も無かったように残りの昼の時間を…


「って何してんすか雪代先輩」


雪代先輩はオレの腕にガッツリと腕を回して、皆に見せびらかすような行為をしていた。


「何って、私たち付き合ったのよ。これくらいは普通でしょ?」


「いや、そうは言いますけど雪代先輩」


「佳奈」


「へ?」


「私の事は佳奈って呼んで、あと敬語も禁止よ」


「いや、でも雪代先輩「かーな!」……佳奈」


「うん、よろしい」


めんどくせぇ!交際ってすっごくめんどくせぇ!


ガラガラと教室を開けるオレに、みんなの視線は釘付けだ。

そりゃそうだろうよ。学校の三大姫の1人がオレの腕にしがみついてんだから。


「うそ!八九師君に雪代先輩ベッタリなんだけど」


「神威の野郎ぅ許せねぇ、オレ達の椿ちゃんだけでなく、雪代先輩まで毒牙に」


「これは制裁が必要だな」


安易に教室に戻ったオレがバカでした。

オレはゆっくりと自分の席に戻り椅子に座ると、隣で雪代先輩も椅子に座り込み、その瞬間佐竹と上原に涙を流しながら胸ぐらを掴まれた。


「神威ぃー!テメェ!椿ちゃんと言う者がありながら!」


「許せねぇ!オレはお前が許せねぇよ神威!」


なんでオレが、こんなに責め立てられなきゃならんのよ。


「神威……」


椿を見やると、椿は怒りを通り越したような顔でオレ達を見据えていた。


「違うんです椿様これには深いふかぁい訳が「私たち今日からお付き合いすることになったの、よろしくね」ちょっとは空気を読んでくれませんかね?!!!」


この人、どえれータイミングでトンデモ発言してきたんですけど!?


「わ、わわわ私だって神威に身も心も捧げておるのじ…おります!」


めっちゃ動揺してんじゃん、素の言葉で話そうとしてたよ今


「でも付き合ってないんでしょ?」


「うっ…」


痛いところをついてくるな、確かにオレと椿は付き合ってない。刀と持ち主の関係だ。


「だったら横やりを入れないでくれる?私達ラブラブなの、ね!神威君」


とてもYESとは言い難いっす雪代先輩。


返答が遅れた瞬間、オレの脇腹を先輩が小突いてきた。


「は…はい」


「ほらね」


「だったら私も!」


そう言ってオレのもう片方の腕にしがみつく椿、両手塞がれちゃ身動き取れんのですけど。


「いいな神威、両手に華だな」


「是非とも変わって欲しいものだ。そしてクラスの男子に処されて欲しいものだ」


「両手に華どころか両手に薔薇なんですけど、棘だらけで痛いんですけど」


そんな風に言い争う内に、昼休み終了5分前のチャイムが鳴り響く。


「あら、もう昼休み終了なのね」


そうして雪代先輩は、オレの腕から離れて教室の出入口へと向かう。


「じゃあね神威君♡放課後迎えに来るから一緒に帰りましょう」


「来なくてよいわ!」


おっと、素が出ちゃいましたよ椿さんよ。


笑顔で教室から出ていく雪代先輩を、それを睨み続ける椿も、次の授業の為弁当箱を片付ける。


「神威、あの女子にほだかされてはならんぞ」


「お…おう」


とは言っても、了承しちまったからには最後まで恋人のフリをしねぇとだし、こーなったら速攻でストーカー野郎を捕まえるしかねぇ!


オレは心にそう決心し、時間が流れ時は放課後、約束通り先輩がオレを迎えにやってきた。


「神威君、一緒に帰りましょ」


「来よったか泥棒猫め」


「泥棒猫とは失礼ね。私はれっきとした彼女よ」


「フン!どーだか」


胃が痛い、これがしばらく続くと思うと胃が痛い。


「さ、行きましょうか」


雪代先輩はオレの手を掴み立ち上がらせると、廊下へと引っ張り出す。


「ちょっ、ちょちょっ!」


「あ、コラ!待たんか!」


そして、オレ達は帰りの帰りの道を歩いて帰るわけなのだが、


「どーしてついてくるのかしら?椿さん」


「私と神威は同じ家に住んでるので当然ですよ」


「一緒に住んでる?」


やっべ、雪代先輩の鋭い視線がこっちに来たよ。

でも事実だしな


「へぇーそう、そうなのね」


もう早く出てきてストーカー!!神威のライフはもうゼロよ!

そうして、オレは何とか先輩を無事に家まで送り届けた。


「今日はありがとう神威君」


「いや、別にこれくらいは普通だよ」


「クスッ、優しいのね、あなた」


笑顔を綻ばせオレを見てくる先輩は、とても絵になる姿だった。


「かぁーむーいー」


やっべ、うちの姫さん激おこだわ。


「それじゃ!オレ達はこれにて失礼します!」


オレは、逃げるように足早で帰路に着く。

そして、後ろから椿がずっと質問してくる。


「神威、ホントの事を申せ、あの娘と何があった?」


さっきからこれだよ、まったく…何も無いって言ってるのによ。


「だぁかぁら、何も無いんだって!告白されて流れでOKしちゃったの!アンダースタン?」


「それはそれで問題じゃろが!」


おっと、何か返答を間違えたらしい。


「オイ、君たち」


「しょーがねーだろ!断れる雰囲気じゃなかったんだからよ!」


「雰囲気1つで左右されるのかお主の心は!」


「オイ」


「とにかく!何もないの!分かってちょーよ!」


「嫌じゃ!」

「ちょっとは聞き分けてくんない!?」


「オイ!!!」


なんだよさっきからうっせぇな!オレは今、椿と大事な話をしてんだよ!

オレは若干威嚇するように声を荒らげながら呼びかけてくる方向に振り向いてやった。


「あん!?」


「君たち佳奈たんの何なんだ?」


オレが振り向くと、メガネでやせ細った男が目の前に立っていた…物騒な刀を持って。


「何って、彼氏」


「恋敵」


「かかか彼氏!?佳奈たんに彼氏だって!」


彼氏だったらなんかまずいのか?ってそうか!こいつが例のストーカー!


「うわぁぁぁ!!!」


ストーカーは刀を振り上げると、オレ達に向かって走り出してくる。

あれくらいなら余裕でかわせ…


メキメキッ


「What's !!!?」


軽くかわしてやろうとした瞬間、ストーカーの筋肉が一気に膨れ上がった。

こわっ!ドーピングでもしてんの!?


「椿!避けるぞ!」


「うむ!」


オレ達は急いでその場をかわして、即座に椿を刀に変身させる。


「あっぶねぇ、つーかあれ刀使いだよな?なんでストーカーが契りかわしてんの?」


『理由は分からんが、ただ事ではなさそうじゃ、みよ』


オレがストーカーに視線を向けると、ストーカーはムッキムキの大男へと変貌し、我を忘れかけていた。


「なぁ、アレなんか変じゃね?」


『じゃな、契りをかわしたにしてはどこかおかしいのぅ』


明らかに暴走してっし、なんなら刀の方に自我があるように見えねぇ。


「とにかく、ここは1度闘ってみるしかねぇか」

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