エピローグ 異世界転生の夢幻

 あれから色々あった。……こう書くと打ち切り漫画の最終回みたいだが、本当に色々あった。何しろ三年が経ったのだ。

 あの日のことは何も分からない。あの蝶や悪魔は本当に存在していたのか。ただの僕の幻覚だったのか。だとしたら、屋上の鍵が開いたのはなぜか。なぜ紗耶は僕の自殺に気づいて駆けつけられたのか(彼女自身は猛烈に嫌な予感がしたと言っている)。

 確実なのは僕があの日を境に、生きることに前向きになれたということだ。


 まあ、そんなことはどうでもいい。僕は、この春から大学生になるのだ。三年のハンデがあるのはそこそこ大変だったが、今のところは何とかなっている。僕が危惧していた程ではなかった。

 ちなみに、紗耶とは今もちょくちょく連絡をとる。定期的に僕の精神状態をチェックしてくるのは御免こうむりたいのだが。


 前置きはそこそこにしておこう。

 僕は、大学進学のための引っ越しに部屋中をひっくり返している最中、ベッドの下からとあるノートを見つけた。

 そこには、正しく「僕の考えた最強の異世界」とでもいうような、架空のファンタジー世界の設定がびっしりと記載されていた。間違いなく、あの夢の異世界の元になったものだろう。

 モンスターから、魔法のシステム、魔法薬の材料になるコケの種類とその詳細な生態まで、流石にそこまではいらんだろ、みたいな設定もある。

 本当にあの頃の僕は異世界が好きだったんだなあ、としみじみ思い、またあることを始めようと思った。

 このノートを基にした、異世界ファンタジーを書こうと思ったのだ。

 確かに異世界に固執して僕は死にかけた。しかし、その理想の世界は、確かに僕の支えになっていた。僕が今まで読んでいたライトノベルがなかったら、僕がもっと早く死のうとしていただろう。

 異世界転生を、低俗な欲望の坩堝だと軽蔑する人もいる。だけど、それで良いじゃないかと僕は思う。

 異世界ファンタジーが、明日の糧になるのなら。生きる希望になるのなら。

 僕は、僕が受け取ったのと同じように、誰かに夢を届けたい。


 きっと僕は、異世界転生の夢幻に、ずっと、囚われたままなのだろう。

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異世界転生の夢幻 すっとこ @suttokodokkorattatatataaaaaa

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