第38話 sideA=友
「あれ、どうしてだろう」
私は目元を拭った。涙が流れていた。なぜ泣いているのかが分からない。
昔、伊田は私を抱えて泣いていた、ような気がする。何度も何度も私の名を呼んでいた気がする。
「大丈夫か?」
伊田が怪訝そうな顔をしている。
「だ、大丈夫だよ」
「なら、いいんだけど」
ふと、伊田の顔を見ていたら、伊田がもっと老け込んだような顔が浮かんだ。なぜこんな顔が浮かんだのか、わからない。わからないがその顔が愛しく見える。
「ううん、何でもない」
私はすぐに元の調子に戻り、伊田の隣を歩いた。まるでそこが私の居場所だ、という風に、しっかりと歩いた。
いつか伊田と一緒に歩くこともなくなるのだろうな。そう思うと、この瞬間瞬間が大切に思えた。
「伊田!!」
「うん、なんだ?」
私は伊田に感謝した。なぜかそうしておかないといけない気がしたからだ。
「ありがとな、いつも」
伊田は、頬を掻いて、
「お、おう」
ぶっきらぼうに返答した。
私は伊田が照れていることを長年の勘で分かった。
思わず、言ってしまった。
「ふうふ」
と。
友END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます