第23話 sideB 0

 詩翔雪極という女子のことを知っているだろうか?

 彼女はめったに笑わない。だから、冷血鉄面やら、クールビューティーとか言われていた。めったに笑わないのでなく、笑えないのではないか? そう思われている節もある。

 だけど、俺こと伊田俊紀は知っている。

 あいつは単に、人と打ち解けることが苦手なだけだ。

 俺とあいつが小学生だったとき、あいつは根暗で俺はぽっちゃりだった。

 俺はあいつのことが家も近くて、髪型の所為で目を隠している変なヤツだと思ったけど、笑うとすごくかわいいのだ。

 あいつの父親と話す機会があって、そのとき、

「極はめったに笑わないんだ」

 と深刻そうに行っていた。その割には俺といるときはめっちゃ笑っていた。

 その笑顔が当たり前だと思っていたのは俺のミスだ。

 中学校でも、あいつは何でもできて、結構、名が知れ渡っていた。だけど、あいつはわたっていなかった。

 楽しくないのか?

 と訊くと、

「どうしても笑えないんだ」

 と悩んでいた。俺とあいつが一緒に笑っていても、俺がいなくなったらあいつはまた仏頂面に戻る。

 それではダメだ。

 だから、高校ではまず俺から変わることにした。

 まず、体を絞った。細マッチョを目指した。

 そして、あいつの居場所を作った。部活部という非公認の部活を作り、あいつを無理やり入部させた。

 そして、いろんな部活にあいつを助っ人として、または、ヘルパーとして貸し出した。

 目論見は成功した。

 あいつは、どんな部活でも成果を出した。そして、居場所を増やしていった。

 また、本人もいろんな部活ができるの楽しいと言っていた。しかし、なかなか笑わない。

 俺ができるのはあいつを笑わせられるようにすることだ。

 これはあいつが俺がいなくても良いようにするための物語だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る