第24話 狂戦士のお嬢様
「まさか堂々と進入してくるとはな……」
場所は二ノ宮家の屋敷の大広間。呆れ半分感心半分といった声をあげたのは1日ぶりの再会を果たした二ノ宮家の主である二ノ宮久。
亮太達はこの大広間にて多くの黒服達に囲まれながら久とその隣に佇む久遠、そして翠と対面していた。捕まってすぐに殴る蹴るの暴行を加えられることはなかったが、亮太だけは翠の部屋の窓ガラスをオシャカにしたこともあって強く縛り上げられた。何故連中は全く躊躇なく亮太に向かってきたのか。そんなにこの3人の中で1番窓ガラスを破りそうに見えるのだろうか。そういった辺りは大いに疑問に感じたが、そこを問いただせる空気でもない。
「それにキミ達、庭で3人を気絶させただろう。一体どういうつもりだね? こんな野蛮な者がいるとなるとやはり翠は転校させざるを得ないが」
その言葉に翠が微かに反応を示した。
「その件に関しては悪いと思ってます。ただ、これもどうしても二ノ宮さんと会って話したかったからなんです」
「ふん! そんな言い訳――」
「写真」
「……は?」
「昨日の写真」
より詳細を伝えると久には思い当たるものがあったらしい。冷や汗を流しながら忌々しげな表情を浮かべる。
「……話を聞こうか」
まさかこんなところで久遠に撮られた写真が役に立つとは。亮太がその写真を持っているはずがないが、ブラフとしての効力はあった。写真のことなど知らない他の者達は疑問符を浮かべているが、これを知る必要はない。というか亮太も気分悪くなるからあまり話したくないし、多用は禁物だ。
とりあえず話を切り出す機会は与えてもらった。本来の予定であればここでは久と話すつもりはなかったがやむなしだ。このまま行こう。
「えーと、二ノ宮さんのお父さん」
「キミにお義父さんなどと言われたくない」
余計な漢字が加わっているような気がするがそれをいちいち突っ込んでいては話が進まない。
「……えーと、久さん」
「キミに名前で呼ばれたくないわ」
「……おいオッサン」
「なんだ?」
――こっちで良いのかよ!
半ばヤケクソ気味にテキトーな呼び方を選んだ亮太はビックリ仰天。
気を取り直して話を続けることとする。
「今日俺達がこの二ノ宮家に進入したのは他でもない。二ノ宮さんと話すためです」
「……キミはおかしなことを言うな。話すだけなら学校でもできるだろうに」
全くもって本当にその通りなのだが、学校で喧嘩したなどのいらない事情まで話すことはないだろう。
「それだけじゃない。俺達は二ノ宮家に――いや、二ノ宮久さん。貴方に宣戦布告しに来たんですよ。二ノ宮翠を転校なんてさせないってね」
亮太のその言葉に翠はハッとして見つめてくる。翠にそんな驚きを与えることができたと思うとなかなか愉快な気分だ。
「……なんだと」
久のこめかみにピキっと青筋がたった。
「そっちの言いたいことも分かりました。けど、二ノ宮さん本人が納得していないならそれを見過ごすことはできません。友達としてね」
「……は、友達?」
「あ」
――やべ、そういえば付き合ってるってことになってるんだったっけ!
「か、彼氏として……ね! ……ぐふッ」
「なんでいきなり吐血してるんだキミは……」
「……いや、失礼。とにかく! 俺達は二ノ宮さんともっと一緒にいたい、その一心でここまで来たんです」
「そうナリよ。亮太と二ノ宮氏の関係は面白――もとい、非常に興味深いナリ。2人の邪魔はさせないナリ」
「あたしも! 翠ちゃんとせっかく仲良くなれたのにこんな形で離れ離れになるなんて嫌です!」
「皆……」
三者三様の主張を聞き、翠は声を漏らす。
「二ノ宮さん、キミの口からも言ってやれ。今まで言いたくても言えなかったこといっぱいあっただろ! それを他ならぬキミの口から伝えるんだ!」
本当であればすぐに友人として、偽彼氏として味方してやれなかったことを詫びるべきなのだろう。だが、今はとにかく勢いが大事だ。翠もそれを理解しているのかこくりと頷き返すとやや勢いに押され気味な自分の親へと向き直る。
「お父さん、私転校なんてしたくない!」
「な、なにィッ……」
「私ずうッとお父さんが私の心配してくれてることにも気が付いていた。有難いと思ってた。でも途中から正直ウザかった!!」
「……え」
いきなりの正直過ぎる告白に久だけでなく、他の者も目を丸くする。
「大体いじめられたから何さ! あんな連中何人かかってきても怖くないし! 『翠はわたしが守る』とか言ってたけどアレ正直自分に少し酔ってたでしょ!? 顔も作ってたでしょ!?」
「「「…………」」」
溜まりに溜まった翠のストレスは飾り気のないありのままの感情を吐き出させる。そのあんまりな内容にその場にいた人物は久を除いて誰もが居た堪れない思いだった。
「それに……!」
追撃の言葉を述べようとする翠の声にびくッと反応をする久を見て、亮太は拘束から抜け出していつの間にか駆け出していた。
「もう止めて!」
そう言って翠の両肩を掴む。
「HA・NA・SE!」
「う、うわああああ!」
暴れる翠によって亮太はまた吹っ飛ばされるが、琉がキャッチしてくれたことで致命的なダメージは免れた。
今度は花梨が駆け寄る。
「翠ちゃんのお父さんのライフはとっくにゼロだよ!」
「……!」
流石に花梨には強く出れないのか。翠は動きと言葉を止める。
すると誰もが恐る恐る久を見るとまるで彼は魂が抜けたかの様に呆然としていた。
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