第21話 三人寄れば文殊の知恵

 亮太はこの2日間に起きた出来事を話した。もちろん翠が過去にイジメを受けていたことは伏せて、翠の親が非常に過保護で翠が江呂山から嫌がらせを受けたこと、そして亮太から催眠術を掛けられているという疑惑を聞いて動き出していたという風にぼかした。そして自分の催眠術の誤解は無事解けたものの今度は翠を説得する様に頼まれて、それをどうしようかと迷っている間に翠と口論になり、ヤムチャするハメになったことまで余すことなく話した。

 それを聞いた花梨と琉は目を合わせると深く溜息を吐いた。確かに聞いててあまり気持ちの良い話ではないだろう。嫌な思いをさせてしまった様で何だか申し訳なくなる。亮太が居心地悪く感じていると、

 「「それは円谷(亮太)が悪い(ナリ)」」

 「……え」

 思わぬリアクションに亮太は目を丸くする。亮太のそれを見て、2人はやれやれと出来の悪い教え子を見る教師の様な目を向ける。すると花梨はずいッと身を乗り出す。

 「良い、円谷? 女の子はね、共感してほしい生き物なの」

 「はあ」

 断定的に言われるとそう反応する他ない。

 「まあ、恋愛したことない円谷には分からないかもしれないけど」

 そう余計な一言から恋愛が多すぎる花梨は更に続ける。

 「翠ちゃんは学校でのそういった嫌な出来事から逃れる為に円谷を頼ったんだよ? なのにその円谷が味方してくれなかったら可哀想じゃない?」

 「……確かにそうだけどさ。でも俺だって好きでこの関係続けてるわけじゃないんだぜ」

 一方的な物言いに若干苛立ち亮太は棘のある言い方で返す。そうだそもそもが翠に例の写真を撮られて脅されたことが全ての始まりなのだ。そうさ、俺は悪くない。

 「……」

 しかし、次に続く言葉が出てこない。何故だ。

 亮太の言葉をゆっくり待ってから花梨はさっきより口調を和らげる。

 「多分……。多分だけど、本人以外の人があまりこういうこと言うのは良くないことなんだけど、翠ちゃん多分円谷のこと結構好きだよ」

 「……え」

 そんなことをいきなり言われては亮太は唖然とする。

 「いやいやいやいやないないないない! 俺がどれだけ今までモテてなかったか知らないからそういうこと言えるんだぜ!」

 そう超早口で反論しながらも亮太の頭の中では「いくら偽物の関係でも毎日のように放課後一緒に過ごすか?」だの「もしかして俺が知らないだけで向こうは昔から俺のこと知っててそれで好きなのか?」等という実に年頃の男子高校生らしい自分に都合の良い妄想を膨らませる。

 亮太のそのリアクションを見て花梨は残念なものを見る目で、

 「……あー、ごめん…好きってそういう好きじゃなくって……友達として? LIKEの方ね」

 と気まずそうに言う。

 「……うん知ってた」

 決して期待などしていないし、全くガッカリなどしていない。

 誰に向けてか分からない言い訳を頭の中で述べながらしっかり落ち込む亮太に対して花梨は「だからさ、」と続ける。

 「円谷はどうなの? 翠ちゃんのこと嫌い?」

 「……」

 なるほど花梨の言いたいことはそういうことか。だが、

 「でもな、これって家庭の事情とか巻き込んだデリケートな問題だろ? 俺がどう言ったって……」

 「確かにどうにもできないかもしれないけど、言うことに意味があるんだよ」

 「む……」

 「円谷がわたしに教えてくれたんだよ。相手がどう受け止めるかは別問題で、まず自分の気持ちを大事にしろって。なんで自分のことになると気持ち仕舞い込んじゃうかなー」

 得意げな表情を浮かべた花梨のその言葉には自信の様なものを感じる。

 花梨のその言葉に琉は「それが亮太の良いところで悪いところナリな」と苦笑を浮かべると亮太の方を諭す様に見る。

 「亮太、最終的にどうなるかは別としてまずは二ノ宮氏と話すことが大事なんじゃないナリか? それこそ二ノ宮氏が海外になんて行ってしまったら後悔が残るナリよ。……改めて聞くナリが、亮太はどうしたいナリか?」

 「……」

 なるほどそう言われてみると自分は自身の気持ちについてはあまり考えてこなかったかもしれない。

 「俺は……」

 亮太は目を閉じて、翠と付き合い始めてからの数週間の出来事を思い返していた。

 ――脅迫写真、キックボクシングで死にかけたこと、クラスメイト達との命を賭した修羅の日々。

 「……!? 亮太、どうしたナリか!? 顔が真っ青ナリよ!?」

 「……いや、大丈夫だ」

 ……いかん、いらんことを思い出してしまったようだ。

 改めて目を閉じて考える。

 ――一緒にスポパラで遊んだこと、おかずの交換をしながら食べた弁当のこと、他愛のない会話をしながら歩んだ帰路。

 別に何も特別なことなどない。普通の恋人同士、いや仲の良い友達同士でもやっているようなことばかりだ。それでも、それでも亮太の胸は温かくなる。その温度を自覚した時、亮太は自分の本心も自覚する。

 「俺は……二ノ宮さんに転校してほしくない」

 亮太のその回答を聞いて、2人は微笑む。

 「……それなら亮太はどうするナリか?」

 「……二ノ宮さんと話したい。だけどもどうすれば良いか分からない。だから、琉、佐倉さん俺に力を貸してくれ」

 亮太はベッドの上で佇まいを直し、2人に向かって頭を下げる。

 「「任せろ(ナリ)」」

 亮太の頭上から力強い言葉が聞こえてきた。

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