第5話 総理、原子力発電所を再検査しましょう!
「総理、全ての原子力発電所を再検査しましょう!」達子は言った。
「原子力規制委員会が、十分検査したんじゃないのかい?」総理はめんどくさそうに言った。
達子はじっくり説明を始めた、「書類上は、いくらでもごまかせます。真の実地検査報告書を出させるのです。選外原発事故では、繋がっているはずの冷却水パイプが繋がっていなかって、冷やせなかった。放射能ベントの必要性をきちんと認識していなかったから、『誰も命令してくれなかった。許可してくれなかった。』と言って、ベントせずに爆発させた。真の実地検査報告書を出させて、すべてのシステムの重要性を再認識させ、図面通りに建設されて稼働可能であることを再確認させるのです。実地検査報告書を集めて、システムが実際に機能するかどうかを調べます。同時に、『実地検査報告書を改ざんした者は、30年間の懲役及び10億円の罰金に処す』よう法整備しましょう。実地検査担当者は、忙しいとか、上司の命令だとか、様々な理由で改ざんせざるを得ないこともあります。上司もその上から命令されてしまうのです。担当者がパワハラ被害に合わないように、改善しましょう。先ず、報告書は改ざん判定ソフトでチェックします。怪しいと判断した箇所は、質問書を送ります。まず、何らかの理由を付けて、本当の検査をして、報告書が再提出されるでしょう。それでも怪しい箇所は、原子力規制委員会から派遣した専門家の立ち会いの下で、チェックし直します。結果を総理が記者発表すれば、『住忠総理は、やるときは、やるんだ。実行力のある凄い総理だ。』と、国民の脳裏に刻まれますよ。そうすれば、次の総裁選は思いのままじゃないですか。」。最後のフレーズで、総理は乗り気になった。
1ヶ月前、達子は、会社のあるチームを集めていた。放射線、流体、画像解析、プログラミング等の博士号を持った精鋭だ。「原子力発電所の検査報告書のインチキを見破って。貴方達なら、できるわね。あなた達よりも優れた人は存在しないのよ。さあ、始めよう!」いつもの決め台詞を言われて、あの達子に信頼されているという自尊心が、彼らを勇気づける。
報告書に、かなりのごまかしが見つかり、質問書を送られた原発側は、工夫して改ざんしたのに、なぜ、改ざんが見つかったのか、不思議で仕方がなかった。「安易に検査しなかった部品や設計に大きな問題があることが分かった。今まで、ずーっとごまかしてきたのに、見つかってしまった。スパイがいるんじゃないか? どう工夫したら今まで通りごまかせるのか?」と、徹夜で変な真剣な議論をしていた。会社の幹部は、昔の検査書の担当者欄に自分が押印していてあるのを見ながら、黙って聞いていた(誰も「昔の検査について、俺に聞くなよ!」と、願いながら。)。「バレないように、どのように隠して修復するか?」という意見も出たが、「既にバレてるから、再検査させてるんじゃないか?」「懲役30年を避けるには、今回が最後のチャンスかもしれない。正直に公表するしかないんじゃないか。会社は、懲役30年の後まで、家族を養ってくれないよ。」という具合に。各項目を正しく検査するという課題の重要性よりも、自分を守る行動(?)を優先した。やむを得ず。本当に実地検査した報告書が提出され、それよりもページ数が多いのだが、工事修正箇所の詳細図面と工事の必要性と重要性が補足資料として提出された。
「良くやったわね。ありがとう! あなた達ならできるって信じてたわ。」達子は、チームメンバーにパーティでねぎらいの言葉を投げかけるのが常だ。達子のオーラは皆を優しく包み込んだ。皆は『女王様の言葉』と受け取った。でも、達子は皆を仲間だと考えているので、自分を女王様などと、つゆほどにも考えたこともなかった。兎に角、達子は皆に優しく接していた。でも、ギフテッド達子には大きな悩みがあった、『日本を動かすために総理補佐官になり、国連も動かせる。でも、世界が私のアドバイスを受けてから結論に達するまでの時間がかかりすぎる。どれだけ時間があっても足りないわ。天から与えられた能力を世界のために活かせていない。私は世界を動かす能力がないのだろうか?』。 能力があるゆえの自己嫌悪。そんな時、健文とのツーショットを見たり、健文に電話して慰めてもらっていた。健文はいつも優しく話してくれた、「空を見上げてごらん。昼は偉大なる太陽が、夜は無限の彼方の星達が、『慌てなくてもいいよ。人類の進歩は宇宙の進歩から見れば小さなことだ。今、出来ることをすればいいよ。』と言っている。」。達子は、『健文に会いたい。』と思った。大学時代は研究室やランチで健文と研究のことや世界の様々な問題について話し合った。でも、今はお互いに仕事が忙しくて、なかなか会えない。『健文は私のことをどう思っているのだろうか? 会って聞く勇気もないが、まずは、何か、会う口実を作ろうっと。』。 健文も同じだった、『達子に会うと、心を見透かされてしまう。恥ずかしくて、特別な用事でもなければ会えない。何か、用事がないかなぁ?』。
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