第五章 |夢想反魂《ステュクス》
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新兵器には想定外の事態がつきものだ。根幹となる識人の理論的究明を放置したまま兵器に仕立て上げた破龍兵装において、それは黎明期から様々な形で発生し続けた。
識人の死骸が操縦棺ごと操縦士と癒着する。仮死状態の識人をそうとは知らず基地内で蘇生させる。そもそも脳にあたる器官や神経系の配置が特定出来ない。
千の形態を持つ識人に対し万の問題が発生した。元より損傷の少ない死骸を回収出来る割合は低く、適合的な死骸は更に少なかった。そして識人の形態的な共通性と統一性の無さ故に、ノウハウの蓄積は遅々として進まなかった。
それでもなお、人類は破龍兵装の絶大な軍事力を追い求め、場当たり的、総当たり的な方法で識人の死骸を改造した。多大な犠牲の果てに、ようやく失敗と成功の割合が同程度になったのが五年前。最初の破龍兵装が造られてから五年が経っていた。
この頃には最初期に確認された技術的問題のほとんどに、解決法とまではいかなくとも一応の理論的説明は付いていた。
しかしただ一つ、あらゆる科学からの説明を拒み続ける不条理な現象が残っていた。とはいえ、それは兵器の運用に直接的な悪影響を及ぼすものではなかったため、主操縦士の精神疲労から来る幻覚として蓋をされて来た。
一定以上の期間、破龍兵装を運用し続けた主操縦士が知覚する死者の影。
姿、声、体温、息遣い。何が知覚されるかは場合に依ったが、それは常に識人と化し死骸となった識人病患者の形をしていた。その操縦士が患者と面識があったか否かにかかわらず。
患者のことなど少しも知らない操縦士が、何故生前の相手を思い浮かべられるのか。それは本当に、識人の身体が記憶した電気信号のパターンから復元された残像に過ぎないのか。
死龍憑きと呼ばれる現象の原因はまだ明らかになっていない。
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