第二章 |少女異相《メタモルフォーシス》

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 一九九八年の東京に識人第一号が出現して以来、人類は頻発する識人災害に対して常に後手に回り続けてきた。その主要な理由は次の三つである。


 まず、識人はその形態、能力、弱点等において千差万別であり、類似した個体が非常に少数である事が挙げられる。データ蓄積による迎撃作戦のパターン化が困難なのである。これは人員、装備の規格化、均質化とそれによる分業を前提とする近代軍隊にとって最悪の敵と言って過言ではない。


 次に、識人はその諸能力、体構造において既存の科学法則を逸脱する点が多々ある。例えば一部の識人は飛翔能力を持つが、その事実は航空力学、エネルギー工学的な不可能を多重に無視したものである。そもそも、あの大きさの生物が自重で潰れることなく生存し得るメカニズムからが、既に不明なのである。この点については反証不可能な超常的理論がいくつも提唱されているが、いずれも通説には至らず、識人学は目下のところ事実集積の段階にとどまっている。


 最後が防患軍の極端な縦割り体制である。現在の国際防患軍は、国連に設置された統合本部の指揮下で行動することになっている。世界防患保障機構WQSO防患軍統合本部QMHに改称してより十五年、各国防患軍が未だに各国防軍の対識人部隊の呼称でしかないのは周知の事実だ。これが国ごとの発症者に対する法的処置の違いと合わさり、情報の分断と国際的共同作戦の困難に繋がった。今日に至るまで、各国内に出現した識人はもっぱら各国防患軍と政府の管轄であり、最初から無法大陸への逃走を事実上黙認している国さえある。


 以上のように、状況は危機的かつ八方塞がりであった。しかも、識人の出現頻度は一貫して上昇を続けていた。


 必要とされたのは、「一国単位で運用可能」かつ「オーバーテクノロジーめいた性能」の「圧倒的個の武力」。度重なる出現に際し、絨毯爆撃や核攻撃、化学兵器使用を行わず平和を維持するため、そういうものが求められていた。


 それが実現したのは二〇〇九年。一号の出現から十年以上が経過した頃だった。


 天才、八雲宗輔により開発された対識人鎮圧用巨大特殊兵器。


 龍の力をもって龍を打ち破る超常の武装。


 通称『破龍兵装』である。

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