ラジオ

遠藤みりん

第1話 ラジオ

 僕の部屋にはラジオがある。

 年代もわからないとても古いラジオだ。


 ある日の夜、ラジオから声が聞こえた。


「明日の朝、貴方は右足に怪我を負うでしょう」


 酷い雑音を交えながらそれっきりでラジオは止まってしまった。


 何処かからの混線だろうか?それにしても不気味だ。


 次の日の朝、僕が通学していると目の前に自転車に乗った子供が右足に目掛けて追突して来た。


 幸い子供に怪我は無かったが、ズボンをめくると右足が擦りむいてしまっている。


「まさかね……」


 僕は昨日のラジオの事を思い出していた。

ただの偶然だと自分に言い聞かせているが何か引っ掛かる。


 その夜も……


「明日の夕方、貴方は財布を落とすでしょう」


 酷い雑音交じりの中、ラジオから流れて来た。


 昨日に続いてまた混線か?気味が悪いな。

次は財布かよ。まぁ二度も偶然は続かないだろう。そんな事を考え僕は眠りに着いた。


 次の日の夕方、僕は飲み物を買おうと自販機を探した。


「あれ?無い」


 鞄やポケットを探すが財布が見つからない。

 またあのラジオの通りになってしまった。


 それ以降、僕はあのラジオの事が頭から離れなくなってしまった。


 家に着くなり僕はラジオの前に座り、声が流れて来るのを待った。


 その夜も……


「明日の夜、貴方は指を怪我するでしょう」


 またラジオから声が聞こえた。そして案の定その通りに洗面台の蛇口を捻る際に指を切ってしまった。


「ラジオの通りだ」


 ラジオから流れる通りになってしまう。僕はそう確信した。


 それ以降も真夜中にラジオから声が流れて来る。僕は声がするまでじっと待っている。


「明日の朝、貴方は……」


「明日の夕方、貴方は……」


「明日の夜、貴方は……」


 毎日決まった時間にラジオから声が流れてくる。


 些細な事から重大な事まで内容は様々だ。


 僕は寝不足になりながらラジオの声を待つのが日課になっていた。


 雑音交じりで聞き取りにくい為、一言も漏らすまいと音量を最大にして右耳と左耳を交互にぴたりとラジオに当て声を待つ。


 毎日


 毎日


 毎日


 僕は雑音交じりのラジオに耳を傾ける。


 ある夜の事だ、いくら待ってもラジオから声が流れなくなってしまった。


「あれ?おかしいな。」


 僕はラジオを叩いたが声がする事は無い。


 音量を大きくしている筈なのに声だけでは無く、ラジオの雑音さえ聞こえない。


「聞こえないなぁ」


「聞こえないなぁ」


「聞こえないなぁ」


 僕は一人事の様に繰り返していた。


「あれ?」


 僕は気づいてしまった。


(聞こえないんだ)


 部屋は恐ろしく静まり返ってしまっている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラジオ 遠藤みりん @endomirin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説