第12話

「被害者の曽根さんの殺害経緯を教えてください」

「当日の夕方に彼の住むマンションに行ったんです。近況を聞かれたので投資の方もうまくいっていると伝えました」

「その方の検案を行なったところ、胃からいくつか食べかすが出てきたんです。夕食を一緒に摂られていますよね?」

「デリバリーで頼んだパスタやサラダ、ワインをご馳走になりました」


「もう一つ検出されたものがあったんですよ」

「それは何ですか?」


「亜ヒ酸だ。胃の中で酸化したワインの中に含まれるアセトアルデヒドの成分と一緒に出てきた」

「……それもバレましたか」

「どこで手に入れた?」

「業務用のガラスの色消し剤を共犯者であるあいつに買わせてもらいました」

「共犯者の男性の矢口は塗装工事の現場で働いていたと。どうやって親しくなった?」

「彼もまた投資をやっていたんです。曽根さんから紹介されて食事に行くほど親しくなったころに、曽根さんの事を相談したところ、同情してくれて犯行に手を出しました」


「三橋琴音という女性はご存じですよね?」

「ああ……あの人の婚約者。そうでした、曽根さんその方と喧嘩が絶えなくなってきていることを何とか晴らしたいと僕に告げてきたんです。そこで矢口に連絡を取り先に山奥に車で行かせて、その間に僕が曽根さんを誘い出してドライブに行こうと言ったんです」

「抵抗はされなかったのか?」

「ずっと映画の話をしていたんです。当時大ヒットしてロングラン上映されていた邦画の話をね」

「その後の彼の行動に異変はなかったか?」

「山間部に差し掛かったところでいったん車を停めたんです。どこに行くのかと聞かれたので友人のペンションのある隣の県に行きたいと言い、また車を走らせて、県道に出たところで信号待ちをしている際に、僕は彼の口を押さえつけてベンジンを沁み込ませた布で窒息させた後、意識を失いました」


「それから曽根さんを矢口に引き渡したのか?」

「はい。初めは山中の木の茂みのあたりにそのまま埋めろと指示したのですが、曽根さんが意識を取り戻してその瞬間に何度か暴行を繰り返し、それから顔を鈍器で抉ったようですね」


「つまり……生きたまま顔を抉ったと?」


「そのようでした。やりすぎだと言いましたが、新谷さんの傑作になるならと思ってとおっしゃってくれました」

「改めて聞きますが、あなたのその作品作りとはどのようなものと考えてよいのですか?」

「先程から言っているように、これらに関与したすべての者たちが芸術作品の協力をしてくれたんです。僕と巡り会えたことで死を選んだ者たちの儀式を執行しただけのことです。こんなに品数が増えるとは思ってもいませんでした」

「これも弟さんの復讐のため?」

「そうですよ。彼が英雄なら僕はデウスのように神の領域と並ぶほどの聖者だとあいつに教えてやりたいのです」


「言っておくが……人間は神と並んではいけないことを知っていますか?」

「どうしてです?」

「神の世界にはその体内に宿る魂をただ見届けることしかできない存在。要はその領域を踏み越えたところで天地をもひるがえすことになる」

「阪野さんは、神の何を知ってそう言えるのですか?関心のない人間が神に向かって侮辱でもしたら、破滅の道に選ばされるのですよ?」

「侮辱などしていない。寧ろあなたの方がこの十二人の罪なき人たちを殺したことが神への冒涜となる」

「いや!罪はあった。人間として生きてきている者たちはすべて罪を背負いながら、善人のつらをしてこの世を漂っているのだ。僕の行いは神にとっては罪とみなされない……神からもうすぐで聖者になれると教えられたんだ」



その頃、署の前では報道陣が立ち並び、各新聞や雑誌、放送局の記者たちがカメラの前で新谷の自供した項目について報告をしていた。


「たった今警察署から入った情報によりますと、今回の連続無差別殺人事件の新たな容疑として取り調べを受けている人物が、事件の実行犯だと認めたとの事です。名前は新谷眞紘氏、三十六歳男性。都内に住む自称投資家として、当初容疑を否定。仮釈放となったのちに別の人物の容疑が現れましたが、新谷氏が自ら出頭し、一連の事件の犯行を及んだとして、現在のところ取り調べを受けているとの事です。繰り返しお伝えします……」


そして、捜査本部では捜査官らが集まり、新谷の自宅の捜索をし、被害者家族との関連性を再度調べる事を発表した。また、彼の弟である人物も捜査すると伝えられると、一斉に外に出ていき、その頃取調室では阪野警部補と新谷、室外の部屋では巡査部長と係長、私が壁越しに彼らの様子を伺っていた。


「新谷の奴、なぜあんなに神にこだわるんだ?」

「信仰心の強さに血が騒いでいるようにも見えるな」

「今話している彼の弟に当たる人物との関係がわかれば、また新たな真相も出るはずです」

「生島。お前も捜索に入れ。物的証拠を洗い出してこい」

「わかりました」


その後新谷の自宅に行くと、捜査官や鑑識官たちが室内の取り調べを行い、私も物品を調べていくうちにある捜査官に声をかけられた。


「生島さん。これ見てください」

「アルバムですか?」

「いくつか写真を見回していっているのですが、家族らしき人たちの中に奴の姿がどこにも写っていないのです」

「免許証は?」

「拝見しましたが、今の本人の顔がこの写真の中にどこにも一致しないんです」

「それじゃあ、新谷の出身地の別海駐在所と釧路警察署に本人の顔写真の提供と実家があった場所の近辺の住人にも、聞き込みをするように連絡してください」

「はい」


私はすぐに署に戻り一時間もしないうちに、釧路警察署の刑事第一課からパソコンに送らせてきたデータが届き、係長と確認をしたところ、ある不可解な点が浮上して、阪野警部補を呼び出しデータをスクリーンに映し出して見せた。


「これが、新谷眞紘?」

「今の顔とは別の人物なんです。警部補、何か割り出すことはできますか?」


俺は映し出しているその顔をじっくりと観察していくうちに、ある一致するところを見つけだした。


「耳だ」

「耳ですか?」

「奴のこの写真とスクリーンに写っている写真の耳をよく見ろ。画像を重ね合わせてみたらわかる」

「……全く一緒ですね。一致します、新谷本人のものです」

「じゃあ今の顔は元の顔から姿を変えて生きていたというわけですよね」

「いつ頃整形手術をしたのかも割り出してみます。生島、都内の美容整形外科をあたるぞ。探し出したらその場所で聞き込みをする。一緒に来い」

「はい!」

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